忍者ブログ
図書館戦争に愛を込めて☆熱く語らせていただきます。堂郁、手柴中心二次創作サイトです。
2024-041 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
prev 03 next 05
111  109  108  107  106  89  104  102  101  100  99 
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

新婚旅行のお話です。
正確にいうと、新婚旅行の行き先決めのお話です。

『scenery』の続きっぽいんですが、自分の中では別話になってまして、辻褄が微妙にあったり合わなかったりです。
そこのところは目を瞑ってくださいね。

『Let's stay at the library.』
堂郁  結婚直前  行ってみたいんです!





その日、堂上班は書庫業務だった。
郁の手際は、相変わらず手塚に負けるが、業務の足を引っ張ることはなくなった。

午前中の業務を無事に終了して、昼休みに入った。
ささやかな休息時間だ。

昼食を取り、早めに書庫へと戻った堂上は、作業机のいすに深く腰掛け、ふーっと目を閉じた。


郁と結婚を決めてからこっち、公休という公休は、結婚式に向けての準備に割いている。
「結婚」という決め事が、順序を踏んでいかなければならないものだという認識はある程度あった。
しかし、ここまで、面倒なものだとは思っていなかった。
ひとつ進めるごとに、各方面の確認と了承を得る。
そして、次の段階に進める。
その段階がいくつもあって、到着地点は見えているのに、なかなか近づけない。


「マリッジブルーになるのって、こういうときなんだろうな」


ぽつりと呟いて、大きく息を吐いた。

結婚式の準備と同時進行で進めているのが、新婚旅行の準備だ。
こちらは、郁とふたりの整合だけなので、そう面倒だとは思っていなかった。

ところが、だ。
結婚式のように準備段階がいくつもあって果てしなく思えても、踏むべき段階は決まっている。
新婚旅行は踏むべき段階が少ないわりに、その段階をクリアするのが難しいのだ。

場所は。
日程は。
期間は。

たったそれだけのことが決まらないのだ。

堂上はもう一度深く息を吸い込んで、深く吐き出した。


そのときだった。
ぱたぱたと書庫の奥から走る足音が近づいてきた。


「あっつし、さーん」


満面の笑みで、堂上の前に走り出たのは、郁だ。
その胸には、一冊の古びた本が抱えられている。


「阿呆か貴様!書庫内は走るな!」


突然、名前で呼ばれて照れくさかった堂上は、決まり文句でその照れを隠した。
どやされた郁はしゅんとなって、項垂れた。

堂上は郁の項垂れた頭をぽんぽんとした。
さすがに堂上も決まりが悪かったのだ。


「どうした?」


どやした時とは、180度反対の甘い声色で訊ねた。
堂上の甘い声に、恐る恐る顔を上げた郁は、再び微笑んで、胸に抱えた一冊の本を堂上へ差し出した。


「やっと見つけたんです」


タイトルを見て、堂上は小さく頷いた。


「篤さんも知ってました?」


堂上の反応を見て、郁はぱらぱらと目的のページをめくった。
開けられた頁には、『キムルーの宿泊施設つき図書館』と印字されていた。


「ずっと前に、旅の雑誌でちらっと見かけたんです。そのときは「ああ、そんなところもあるのね」くらいだったんですけど、ずっと気になっていたんです。いろいろな旅行関係の本を見たりしたんですけど、見つからなくて…そしたら、見つかったんですよ」


飛び上がらんばかりの嬉しさで報告する郁を堂上は微笑ましく見守った。


「新婚旅行だと、長いお休みもらえるんですよね。ちょっと遠いけど、行ってみたいなあと思って」


夢見心地で話す郁は、その表情から、すでに夢の世界に飛び立っているようだった。
堂上もここの話は知っている。

イギリスのウェールズ地方には宿泊できる図書館があるというのだ。
三食付きで破格の値段。
宿泊者は図書館の書物をどこで読んでもいいらしい。
もちろん、宿泊は個室だから、個室のベッドの上で読むもよし、図書館の床に寝転がって読むもよしだ。
イギリスらしくティータイムには、図書館員も宿泊者も一緒に、カップを片手に談笑する。
話題は、古文書から現代文学まで幅広い。

図書館員ならば、本好きならば、一度は体験してみたい、ミラクルワールドなのかもしれない。


「たぶん、楽しいだろうな」


堂上も郁と一緒に寝転がって本を読む自分を想像して、笑った。


「でしょう。行きましょう、ねっ」


心はすでにウェールズに飛び立ってように、郁が言った。
ところが、堂上はふっと笑みを消した。
いつも、郁に言い聞かせるときの表情になり、郁の肩に手をおいた。


「行ってみたいが、行けない」

「どうして?」


郁は納得できないという顔で堂上を見つめた。


「その図書館のことが、今はわからないんだ」


えっ、と郁は息を呑んだ。


「俺もずいぶん前に、そうだな、図書大時代に行きたいと思って調べたんだ。後にも先にも、そこの図書館について記述された本は、その一冊だけだ。詳しい場所も連絡先も、書いてある情報は古すぎて使えなかった」

「そうなんですか…」

「ああ」

「キムルーって地名じゃ、見つからないんですか?」

「キムルーというのは、ウェールズ地方を意味するウェールズ語だ」

「そっか。ウェールズにある、としかわからないんですね」

「ああ。これだけインターネットが発達して、世界の情報が瞬時にわかる時代に、この図書館の情報だけは、いくら探しても見つからなかった。だから、今もあるのか、すでになくなってしまったのか、わからないんだ」

「そうだったんですか…」


郁と同じように、残念そうな顔をした堂上は、頭の上に置いた手を、郁の頬を滑らせた。


「お前と一緒に行ったら、さぞ楽しかっただろうにな」


郁は小さく「はい」と頷いた。


本が大好きなふたりのことだ。
あれこれ、書架から本を選ぶところから、話題にはことかかないだろう。
タイトルがどうの、装丁がどうの。
読み進めるうちに、キャラ読みの郁は、ぶつぶつと登場人物の行動ひとつひとつに感動を覚えるだろう。
そして、「見てくださいよ~」と、堂上のことなどお構いなしに、「どうしてこういう展開なんでしょう?」と言ってくるのだろう。


そんな光景を思い浮かべて、堂上はもう一度残念そうに、郁の頬を撫でた。
郁の残念そうに、頬をすべる堂上の手にそっと頭を乗せた。


「じゃあ、本は返してきますね」


堂上に背を向けて歩き出した郁に堂上がぽつりと呟きかけた。


「まあ、その図書館のことがわかったとしても、行けるのは当分先の話だな」


突然、脈絡のない話の振り方に、郁は怪訝な顔で振り向いた。


「お前なあ、その図書館、ウェールズにあるんだぞ」

「ええ。そう書いてありますもん」

「ウェールズってどこにあるか、知ってるのか?」

「知ってますよう」


少し馬鹿にした言い方にかちんときた郁は胸を張って答える。


「イギリスですよ」

「そうだ。イギリスの公用語は、なんだ?」

「イギリスなんだから、英語に決まってます」


これまた、胸を張って答えた。


「その英語圏の図書館においてある本は、何語で書かれている?」

「英語に決まってるじゃないですか!…あっ…」


今までの勢いはどこへやら、郁はしゅんとしてしまった。
ゆっくりと近づいてきた堂上は郁の頭をぽんぽんとした。


「そうだ。英語で書かれている。まあ、日本語の本も少しはあると思うがな」

「そうですよね。英語なんですよね…」

「お前、英文、読めるのか?」

「ひどっ!それって失礼じゃありませんか!」


一瞬むっと言い返した郁だったが、英語の実力のなさは、座学で露見済みだ。


「そうめげるな。俺も簡単な英文なら読めるが、初見で辞書なしでとなると、自信はないな」

「そうなんですか?」

「日本人だからな」


さっと視線をそむける堂上に、郁はほっとして微笑した。
堂上は郁の頭をぽんぽんし続けた。


「児童書なら、なんとかなるかもしれないが…」


それが、堂上の負け惜しみだと気付いた郁は、くすりと笑いをこぼした。

とたん、ぽんぽんと優しかった堂上の手が、いきなり拳骨に豹変して振り下ろされた。


「いったー。なんなんですか!これ以上バカになったらどうしてくれるんですか?」


ぷいとそっぽを向いた堂上は、背を向けて言い切った。


「それ以上バカになっても、責任は取ってやるから安心しろ」

「それって、それって…安心するけど、これ以上バカになるのはごめんです」


ぷっとふたり同時に吹き出した。
書庫内に、ふたりの笑い声が響いた。



fin.


あとがき
堂上と郁の「新婚旅行はどこへ?」なお話でした。

郁ちゃんが持ってきた本は
『誘惑するイギリス』  杉惠惇宏 編
24人のイギリス通の方々が書かれたエッセイ集です。
読んだことがないので、どんな内容なのかはわかりません。

宿泊施設つき図書館のことは、この本のほかにもいろいろな本で見かけました。
ただ、どこを探しても(インターネットも含めて)この本のタイトル以外の情報が見つかりませんでした。
(単に探し方が悪いだけかもしれない)
もしかしたら、ヘイオンワイにあるのかもしれないとも思ったんですが…
(ヘイオンワイはウェールズ地方東部の小さな町で、古本屋さんが多いことで有名)
不思議な場所ってところで、捉えてくださると嬉しいです。

カップ片手に、本談義…いいなあ。
きっと結婚したら、夜長寄り添って読書に勤しんでいそうです、堂郁。
そんな光景をちらりと想像する、泊まれる図書館でした。

感想お聞かせいただけたら嬉しいです。
読んでくださり、ありがとうございました。
PR
管理人のみ閲覧可
NAME
TITLE
MAIL
URL
COMMENT
EMOJI
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
PASS
無題
きゃー!!
素敵な図書館があるんですね~。
私も行ってみたいですvv
新婚旅行に、宿泊できる図書館なんて郁ちゃんたちにはぴったりですvv
素敵なお話ごちそうさまでした~vv
EDIT
at : 2008/09/27(Sat) 21:11:54
TRACKBACK URL 
絶賛応援中
『図書館戦争』公式サイト
プロフィール
HN:
亜生(あおい)
性別:
女性
自己紹介:
関東の片田舎に住む。
典型的 O 型人間。
せっかちなのにのんびりや。
好物はハチミツと梅酒。

カウンタ
メールフォーム
おすすめ
図書館戦争

図書館戦争文庫版

(コミックス)1
図書館戦争
LOVE & WAR




(コミックス)2
図書館戦争spitfire!

(CD、DVD)1
DJCD 関東図書基地広報課 第壱巻   第弐巻

DVD 図書館戦争
(CD DVD)2
実写版DVD

サントラ
(有川先生の本)1
(有川先生の本)2
(有川先生の本)3
(有川先生の本)4
(有川先生の本)5
ブログ内検索
"亜生(あおい)" WROTE ALL ARTICLES.
PRODUCED BY SHINOBI.JP @ SAMURAI FACTORY INC.
忍者ブログ [PR]