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というには、あまりに劇的過ぎる毎日の空模様であります。
青空の向こうに真っ黒な雷雲。
振り出す雨音はまるで豆皿をひっくり返したようで……
スクーターで出かけるのに一大決心する日々です。
新しいPCを慣らす意味で書きました。
先にやらねばならないことがあるというのに、そちらは棚上げのままですみません。
『モノオノフアキ』
堂郁 革命~その幕切れ後~ 考えたってわかんないよ。
嵐が去った後の夏は残暑だった。
残暑は月を越して、九月になっても続いていた。
「あっつう」
ケースを載せた台車を押しながら、郁は無意識に呟く。
その言葉に合わせるように、額から頬を伝い、ぽたりと汗が落ちた。
「言葉にすな、現実味が増す」
重い台車とは裏腹に、書類数枚を持って隣を歩く柴崎が呟く。
「だってほんとに、あっつい」
「暑いのは事実。でも、言葉にすると言霊が宿って、ますますほんとに暑くなっちゃうでしょ。だから、言葉にしないの」
「言霊ねえ……」
「わかったら、黙って運ぶ。館内は冷房効いてるから、今よりはましなはずよ」
「へえい」
扉の向こうのオアシス目指して、郁は黙々と台車を押した。
「へえ……着いた」
「そしたら、さっさと開架する。今週は新刊雑誌の発売日で、ほら、もう待ってる人がいる」
柴崎があごで指し示す方向には、新刊開架を待ちわびる人がちらちら視線をよこしていた。
本が狩られる時代。
雑誌にもさまざまな付加価値がつけられ、図書館での閲覧を楽しみにする人が多い。
インターネットでも似たようなコンテンツはあるものの、何誌も並べて見比べられるのは、やはり本の特権だ。
雑誌、特にファッション系雑誌の新刊開架日は、図書館の新刊コーナーも賑わうのだった。
新刊のファッション系雑誌を本棚に並べだすと、急にそこだけ季節が進んだ。
「秋だねえ」
「今年はアースカラーが流行りかしら?」
「去年はビビッド系だったけどね」
「まあ、業界戦略でしょうけど」
「そういうものなんだ」
ふーんと郁は熱心に表紙を眺めていた。
「気になるんだ」
表紙に見とれている郁のわき腹に柴崎の肘がこつんと当てられた。
「そうか!来週だっけ?堂上教官の転院」
「うん、来週……近くなるから、毎日来いって。そんなの無理ですって言ったんだけど、そしたら、すごく寂しそうな顔して……って、あわわ。あたし、何言ってんのよお」
表紙に見とれて心ここにあらずだった郁はぽつりとこぼしてしまったのだ。
「そんなことだと思ったわよ。あんたがファッション系の雑誌を熟読してるとこなんて見たことなかったもの」
目を細めて郁を見る柴崎は、まるでチェシャ猫だ。
堂上が都心の病院に入院している今は、毎日お見舞いに行くのは難しい。
お見舞いに出かける前日は、帰寮するなりワードローブを広げて、めったに使うことのない姿見の前でうんうん唸っている。
一晩がかりで選んだ服にいそいそと身を包み、郁はお見舞いに出かけていた。
堂上が基地近くの病院に転院になれば、お見舞いの頻度は当然のことながら増えるに決まっている。
堂上がそれを望んでいることは、誰の目にも明らかなのだ。
いや、見ずともわかる周知の事実だ。
そして、それは郁にある意味で負担を増加させることも明らかだった。
柴崎はこれからのことを考えて、深いため息を吐く。
郁に泣き付かれるのは必須。
アドバイスに、さらには買い物にだって付き合わねばならない事態になるだろうことも予想できる。
ふとそんなことを思っていると、新刊の開架を終えた郁がくいと柴崎のわき腹を押した。
「いったーい」
「おい、コラ。そんな力入れてないよ」
「戦闘種と一緒にするな」
「ってかさあ」
「なに?」
「『アンニュイでメランコリックな秋にぴったりの装い』ってなに?」
郁が一冊のファッション雑誌の特集記事をぺらりと見せる。
たしかに『アンニュイでメランコリックな秋』とある。
「アンニュイってどんな意味?」
「フランス語でものうい感じ、かな」
「じゃあ、メランコリックって?」
「物思いに沈むってこと。どっちかっていうと、憂鬱って雰囲気かしら」
「えええ、なんだかすんごく落ち込んでる雰囲気だね、この秋って」
言葉の意味を考えれば、それは色彩のぼやけたグレーなイメージが広がる。
「雑誌のキャッチコピーなんて、雰囲気が出ればいいのよ、なんだって」
「秋って物憂くって、憂鬱なの?なんだか、楽しくない」
「物思う秋っていうでしょ?」
「でも、なんか違う気がする」
しきりに頭を傾げて不思議がる郁を柴崎は楽しそうに眺めた。
あんた、気がついてないでしょ。
そうやって小さなことに悩んで。
ああ、モロ恋してる乙女じゃない。
アンニュイで、メランコリックじゃない。
柴崎はふと、嵐の最中、距離の近くなった同期を思い浮かべていた。
彼が堂上と同じ境遇になったとき、自分は目の前の郁のような反応をするのだろうか?
アンニュイでメランコリックになるのだろうか?
「ないわあ、それは……いやでも、そうでもないか?うーん」
冷静に自己分析して、柴崎はあっさりその考えを却下した。
「はあ、ずっと夏だったらよかったのに」
「いやよ、暑いままなんて」
「あああ、自分で口にするなって言っておいて、暑いっていってる」
「揚げ足取らない。あんただってそうでしょう?」
「だって、夏のままだったら、悩まなくても何とかなりそうなんだもん」
「あら、アースカラーが流行なら、いっそ戦闘服そのままでいいじゃない。ばっちりアースカラーでしてよ」
「ちょーっと。あんなのを流行にしないでよ」
頬をぷっと膨らませて、郁は足元のケースを畳んで台車を返すためにさっさと方向展開してしまった。
その背中を見つめて、柴崎はそっと呟いた。
「大丈夫、あんたはそのままで。だって、そのままのあんたが好きなのよ、教官は」
アンニュイでメランコリックな秋は始まったばかり。
fin.
あとがき
久しぶりにSSを書きました。
目的は、新しいPCに慣れるため。
いえいえ、そうではなくて、季節的に嵐の後の堂郁、特に郁ちゃんの気持ちを書きたかったんです。
郁の恋模様を一番そばで見ている柴崎は、郁のことを考えてるんだけど、実は自分もそこに投影してるんだと思います。
手塚のことが気になってるのに、一歩踏み出せなくて、それが恋かなんて思いたくなくて、でも、思っちゃうんですよね。
秋は物思いの耽る季節です。
ああ、ベッドの中で堂上さんは物思いに耽りすぎてないといいなあと思います。
久しぶりなので、いろいろアラがあります。
あたたかく見守っていただけるとうれしいです。
感想などお待ち申し上げます。

典型的 O 型人間。
せっかちなのにのんびりや。
好物はハチミツと梅酒。