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図書館戦争に愛を込めて☆熱く語らせていただきます。堂郁、手柴中心二次創作サイトです。
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女の子は誰だって「きれいなお姉さん」になりたいものです。
当初の目的地はそこにありました。
なのに、道を選び間違えたのか、着地点がずれました。
あれ?


『Small chamomile 』
郁&柴崎   危機 昇任試験後   きれいでしょ。



「ただいま~」


鍵をかちゃりと開けて、部屋へと入る。
灯りが点いていないところをみると、柴崎はまだ帰ってきていない。

三和土に靴をそろえて脱ぐ。
いい加減に脱ぎ捨てると、柴崎からいやというほどの指導が入るからだ。
柴崎の靴がないから、きっとまだ帰寮していないのだろう。

着替えて、窓を開け放つ。
昼間締め切りにしているから、どうしたって部屋の空気は澱んでしまう。
寒い熱いに関係なく、帰室したら、換気をする。
柴崎と郁の暗黙の了解事項のひとつだった。

窓から外の新鮮な風が吹き入る。
その優しさに、郁はひと時、身を任せた。



着替えをして時計を見れば、食事の時間も後半に入っていた。


「待ってようと思ったけど…先にいってこよう。もしかしたら、済ませてくるかもしれないし、ね」


誰もいない部屋で、自分に自分で返事をして、郁は食事へと出かけた。

食堂から戻る途中、共有ロビーで業務部の先輩を見かけた。
指先がきれいで有名な先輩。
特に爪の美しさで評判が高い。
常にマニキュアで彩られ、時折、ネイルアートが輝く。
カウンター業務では、その指先に見とれて、ぼーっとしてしまう男性がいることで有名だ。
今も、缶ジュースを華麗に持って、同僚と語らっている。
優雅な仕草で、缶をもて遊ぶ様は、女性から見ても魅力的だ。


「いいなあ。あたしもたまにはマニキュアしてみたいかも……でも、訓練で重い銃器だ、リペリングでロープ持ってたら、爪なんて傷だらけだよね」


ちらり、先輩の今日も光る指先を見て、郁は部屋へと戻った。


部屋に戻ると、柴崎も帰寮していた。
テーブルの上には、小ぶりの袋とパンフレットが置かれていた。


「おかえり、柴崎」

「ただいま」

「食事は?」

「済ませてきた」

「自腹で?」

「試写会終わって、外に出たら、『ご一緒しませんか?』って」

「しっかりご馳走になったわけね」

「4人でね」


うわあ、鬼。

郁は後ろ向きに吐き捨てた。


今日、柴崎は公休で、業務部の子と映画の試写会に出かけていた。
レファレンスで柴崎に一目ぼれした、映画配給会社の営業マンが、どうぞ、と差し出した試写会のチケット。
おそらく、その営業マンは「ご一緒しませんか」と言い出したかったはず。
しかし、その言葉の前に、柴崎が彼に投げかけた言葉は、「あら、この主演男優、同期の子が大ファンなんです。それに、この音楽担当、これも好きな子いるんですよね」、だった。
彼は、誘い言葉を口にすることもできず「何枚ご用意しましょうか」と柴崎に告げた。
柴崎の営業スマイルと引き換えに、彼は試写会のチケットを4枚渡し、去っていった。


「映画、どうだった?」


ぱらぱらと、郁はパンフレットをめくった。


映画は、英国ガーデンに見せられた主人公の女性が、英国を旅するところから始まる。
異国の旅。
初めての地でもどうにかなると甘く考えていた主人公は、ことごとく災難に見舞われる。
そんな彼女を助けるのは、日本人を父に持つ、英国青年。
家庭を振り返らない父に反抗して、母とともに祖父母のいる英国に渡る。
彼は今、祖父母から母へと受け継がれた庭園を守っている。
彼の庭園を訪れ、彼女は癒される。
そして、彼とふたり、英国で暮らしていくことを選ぶ。

ありていに言えば、ごくごくありふれたラブストーリーだ。

特徴的なのは、庭園のカメラワークがすばらしいということらしい。
ドキュメンタリーにしてもいいほどの画質と構図。
あと、日本ではあまり見かけない、ハーブ園が細部まで映されているということだ。


「普通のラブロマンス。18禁描写なし。環境映画って言っても通りそうな映像だったわ」


はい、これお土産ね。

着替えをすませて、郁の向かいに腰を下ろした柴崎は、手提げ袋から、いろいろ取り出した。

英国ガーデンのポストカード。
アロマオイルのミニチュアボトル。
ポプリサッシュ。
エトセトラ、エトセトラ……

女性をターゲットにした映画の試写会だけあって、グッズも女性向けのものばかりだ。


郁は、能書きと実物を一つ一つ見比べては、納得して楽しんでいた。


「気に入ったなら、あげるわよ」


柴崎は、あまり興味なさそうに言った。


なら、これもらおうかな。

と、郁が手にしたのは、アロマオイルのミニチュアボトル。
ラベンダーをベースにしたハーバル系の香りがふわりと立つ。
一滴、手のひらで暖めると、香りが一際立ち上がった。


「いいかおり」

「ラベンダーってリラックス系の香りだから、疲れた夜にはちょうどいいのよね」


香りのついた手のひらをこすり合わせていると、柴崎が手を伸ばしてきた。
郁の両手を、手の甲を上にして、自分のほうに引き寄せる。
その視線は、郁の指先、爪に集中していた。


「きれいな形してんのね、あんたの爪」


柴崎は独り言のように呟く。
郁の指先をマッサージするように優しく撫でる。


「そうかな?でも、戦闘職種だから、爪伸ばせないし、銃器やロープで傷ついちゃうし。きれいじゃないよ。ほら、業務部のあの先輩。彼女みたいなのを言うんだよ、きれいって」


自分を卑下しながら、郁は苦笑した。
柴崎はそんな郁を慈しむように笑った。


「そんなことないって。働いてるんだから傷くらいつくわよ。あんたのは、形がモデル張りにきれいだから、それでいいのよ」


なにが、だから、それでいいのか。
即座に理解できなかったが、柴崎に慰められてようで、郁はうれしかった。


「そうだ、もうひとつあんたにちょうどいいのがあったはず……っと、あった」


柴崎は、空になったはずの小袋の中を覗き込んで、一枚の紙を取り出した。

紙だと思っていたものは、実はシールシートだった。
映画のフライヤーの背景の上に、背景に映っている花々が、シールになっているものだった。


「シール?」

「うん、ネイルシール。爪に貼るの」

「やったことあるー。昔、五戦隊レンジャーのシール、爪に貼ったよ」

「ったく、あんたって、少しは、キラキラひらひらしたもんと遊んだことないのか」

「それは、お母さんが大好きだったから、お母さんが遊んでた。あたしは、兄さんの持ってる五戦隊レンジャーのシールの方がうれしかった」


幼い頃をちょっと暴露して、郁は恥ずかしそうに笑った。
柴崎は、楽しそうにけらけら笑うと、自分のコスメボックスを持ち出してきた。


「なにするの?」

「ネイルアート」

「ネイルアートって、このシールをぺったん、爪に貼っておしまい、じゃないの?」

「そんなことしたら、すぐにシール剥がれちゃうわよ。せっかくつけるんなら、せめて数日は持ってくれないとつまらないでしょ」


そういうものなのか、と郁は首をかしげながら、明日は一日館内警備だったよな、と思っていた。


まず、爪の油を取る。
続いて、爪やすりで爪の形を整える。


「本当は甘かわも手入れするんだけど、ほこりなんかに弱くなるから、あんたはパスしとくわね」


次に爪の表面の凹凸を爪磨きで整える。
爪専用の栄養クリームをすり込む。


「あんたに指先触られてると、なんかへんな気持ちになってくる」


ぽつんと郁が呟くと、

「あたしはいつでもいいわよ」

と柴崎が色っぽい視線を流してきた。


「って、そういうのはいいから。ありがとね」


手を引っ込めようとすると、柴崎は郁の手をがっしりつかんだまま離さなかった。


「何いってんの。シール貼ってないでしょ、シール」


当初の目的を忘れた郁は、てへっと舌を出して笑った。


ベースコートを爪に塗り、乾いたところで、シールを爪に貼る。


「これ、お似合いだと思いましてよ?」


柴崎が指し示すのは、シートの片隅に小さく咲く、カミツレだった。
背景の一番下の、登場人物たちの足元にそれは咲き誇っていた。

荒い印刷だと、花びらが飛んでしまって、ただの白い花にしか見えないが、
画質にこだわった映画はこんなところまでこだわったのだろう。
花びら一枚一枚が鮮明に印刷されていた。


「カミツレ……うん、これにする」

「うん」

ふたり微笑みあう。


「あんた、カミツレ、欲しがってるものね」


柴崎は、郁の爪の表面にベースコートを塗りながら、しみじみと言う。
郁がどれほどカミツレに憧れ、それを目指しているのかを、自分のことのように知っている柴崎だから。


ベースコートが乾くのを待って、カミツレのシールを爪に乗せる。
右手人差し指と左手人差し指には一輪のものを、左手薬指には二輪のものを、貼った。


「柴崎、右手は人差し指で、左手は人差し指と薬指って、バランス悪くない?」


てっきり全部の指の爪にシールを貼るものだと思っていた郁は、三本の指にシールを貼って、さっさとトップコートを塗り始めた柴崎に問いかけた。


「全部の爪に貼ってもいいけど、今までマニキュアすらしなかったあんたがそれやったら、自分で見ても、視界がうるさく感じるわよ。それにね、指にはそれぞれ意味があんの」


意味?指に?
お父さん指とか、赤ちゃん指、とかじゃなくて?


疑問符いっぱいの郁を軽く笑って、柴崎は教えてくれた。


「右手は現実の力、左手は想う力を意味するって言われてるの。右手の人差し指は『理想の実現』、左手人差し指は『能力アップ』、薬指は『愛の力』よ」

ほら、愛の力は二人いなくちゃ、ね。

丁寧に丁寧に、郁の爪の上をブラシで撫でて、柴崎は呪文のように唱える。


「きっとあんた、カミツレ取れるわよ。王子様にだって、追いつくわよ」


トップコートが乾くまで、動くなと言われ、だるまさんが転んだ状態で郁は耐えた。
柴崎は、そんな郁を見て、からからと笑い転げた。


「あんたが言ったんでしょう、動くなって」

「あはは、だからって、微動だにしないで耐えてるって…その姿、かわいくて、笑える」

「かわいかったら、笑うなー」


怒鳴りながら、郁はそっと指先を見た。
小さなカミツレがひっそり咲き誇った指先。


士長昇任試験に合格したとき、郁は思った。

自分はたぶん監まで行けない。
上へ上っていく、柴崎や手塚を下から支えていく。
でも…
カミツレは取る。
どんなに大変でも、どんなに時間がかかっても。
カミツレだけはこの手にする。

そう、心に誓った。

そのことを柴崎の前で口にしたことはない。
けれど、聡い親友は、すべてをわかって、応援してくれる。
ありがたいと思う。


だから、がんばろう。


郁の爪先のカミツレが、ほんの少し揺れた。
がんばれと声援を送るように。


fin.

あとがき

士長昇任試験の後で、郁が柴崎と手塚の三人で語り合うシーンがあって、それからしばらくしてからのことです。
郁のカミツレに対する熱い想いを柴崎がすごく大切にしているのを書こうと思いました。

映画の試写会のチケットを地方公務員に準ずる図書隊員がもらっていいのかという疑問があります。
後方支援員がもらったということにすればいいかな~アウトソーシングだし、彼らは。
柴崎はあくまでも、窓口業務だったということで、丸く治めておきましょう。

ネイルアートについては、もう突っ込まないでくださいね。
自分がほとんど手の爪を飾ることをしないので、わからないんです。
家事してると、知らないうちに取れちゃってるので、悲しいんです。
郁も戦闘職種ってことで、ふだんは化粧も含めてあまり飾らないと思います。
堂上と付き合うようになって、飾ることを覚えていけばいいと思います。

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