『絡めた指』（堂郁）

近頃お気に入りは、坂木司と米澤穂信です。
どちらも「殺人のないミステリー」で、謎解きなんだけど、どこかでほんわかできる作風です。
お薦めは坂木さんは「和菓子のアン」、米澤さんは「氷菓」です。

堂上教官Ver.のTVスポットをTVで見ました。
PC画面じゃなくて、しかも見ようと思って見ていないときにTV画面に堂上教官の声が流れると、ドキッとしました。
驚いた、というより、トキメイタ、ドキです、笑。

本編を何度も読み返して、どうしても補完してしまった場面です。

絡めた指
堂郁　　　革命　　　暗闇でよかった。

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乗り込んだ車でさらにコンテナに乗り込むという二重の密閉状態は、閉所恐怖症気味の郁にとって、厳しいものだった。
あくまでも「気分的苦痛」なのだが、暗闇で何も見えないと状況把握ができず、自分の心臓の音が異様に耳に響き、息遣いが荒くなってくるのがわかった。

気を紛らわそうと声を出すと、不意に郁の右手を堂上が握った。
同じ車に乗っている当麻は後席だから、自分の右手を握ったのは堂上で間違いない。
それに気づくと、郁は思わず声を上げそうになった。

なにかあると、自分の頭の上にぽんと落ちてくる手のひらに、今右手を包まれている。
自分以外の体温を感じて、郁の荒くなった息遣いは平静に戻った。

そして、気がつくと自分から指を絡めていた。
堂上も励ましのつもりだろう絡めた指を返してきた。



やっぱり男の人の手って、ちょっとごつごつしてるなあ。

これって、傷痕？
引き攣れてるよ。
火傷っぽい？

ここは、縫った痕だ。
痛かっただろうなあ。


視覚を奪われた暗闇の中で、郁の手先の感覚は研ぎ澄まされて、堂上の手の情報が事細かに伝わる。
見ただけではわからない小さな傷も含めて、多くの傷を受けていたことも。

この手に今まで何度も救われ、何度も励まされてきた。
今も。

この手が王子様の差し出された手だと知って懐かしくも感じた。
もう決して見失いたくないと。


時折、堂上が指にきゅっと力を入れてくる。
まるで「俺がついている」と言っているように。

だから、郁もきゅっと握り返す。
「教官がいるから大丈夫です」と言うように。

時折、堂上はそっと親指で郁の手を撫でる。
まるで「大丈夫」と言っているように。

だから、郁もそっと堂上の手を親指で撫でる。
「はい」と返事するように。


やがて、着陸した感触が伝わり、何気なく堂上の指が離れた。
郁は、ほっとしたような、その指を追いかけたいような、もったいないような気持ちになった。

それもすぐに外の激しい射撃の音で現実に引き戻された。

けれど、コンテナが開けられるまでは暗闇のままだ。
手を伸ばせば届くところにある堂上の手に、郁は手を伸ばしかける。


「もう少し、いいですか？」


緊急事態の中で、思わず本音が口から出そうになり慌てた。
あわあわしながら、「あっまだ暗いから見えてないや。よかった」と変に安心した。

コンテナが開けられ、闇から脱出する。
同時に、自分の体が堂上に向いていたことに気づき、郁は咄嗟に下を向いた。
急に自分の心臓の音がうるさくなる。

ああ、だから、もう。

そっと右手を握り、郁は何度も絡めた堂上の指の感触を思い出した。
けれど、特殊部隊事務室にもどるまで、郁は堂上を見ることができず、俯いたままだった。



fin.

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あとがき
図書館革命（単行本）のP117の『＊』の補完SSです。
立川から基地まで、ほんの数分の間の郁ちゃんの気持ちは乙女全開だったと思います。
当麻先生を基地まで無事にお連れすると言う特別任務中ですけど、車＆コンテナの密室でできることがなくって、そんな中で堂上教官に手握られただけじゃなくて指まで絡められちゃったら、どっきどきですよ。

きっと革命を読んだ方々みなさんがいろいろな補完をされているんじゃないかと思います。
こんな補完もあるよ、と読んでいただけたらうれしいです。
みなさんの補完もお聞かせいただけたら楽しいな。
感想などお待ちしています。
書き上げて即効upなので、誤字脱字や表現のおかしなところあると思います。お許しくださいませ。