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図書館戦争に愛を込めて☆熱く語らせていただきます。堂郁、手柴中心二次創作サイトです。
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エスキユさま主催の『図書館戦争 ONLINE ANTHOLOGY』に参加させていただいた時の SS です。
公開時期が初秋の頃だったので、季節感の感じられる背景を考えました。
登場人物は、できたらみんな出したいなあと思っていました。

タイトルは「夕暮れ」の意です。
読んでくださった方が秋の夕暮れに大切な人と手を繋いでくれたらいいな。
そして、そのぬくもりを抱きしめてくださったら嬉しいな。
そんなことを思って書き上げました。

10月19日 堂郁の日記念に。

『evenfall』
堂郁+手柴+小毬  革命後  秋の夕暮れは寂しそう


♪夕焼け小焼けで日が暮れて♪


季節は秋を迎え、日もだいぶ西に傾いた午後 4 時 30 分。
武蔵野第一図書館では、図書館内のスピーカーから懐かしい童謡のメロディが流れる。
歌付きだと本を読むものの妨げになる、ということで、オルゴール音楽が奏でられる。

このメロディが流れると、手隙の図書館員は児童室へと赴き、遊んでいる小学生以下の子供たちに帰宅を促す。
もちろん、まだ閉館の時間ではない。
保護者が一緒に来館していない子供たちを暗くなる前に帰宅させるためだ。

午後 4 時 30 分という時間は、まだ早いといえば早い時間だ。
神無月だと、まだ日は沈んでおらず、あたりは明るい。
塾などに通う子供たちにとって、この時間は昼間に近い。

しかし、昨今の児童が巻き込まれた残虐な事件を考えると、必要な処置なのだ。
核家族化が進み、共働き世帯が増え、どうしても子供が独りでいる時間は長くなる一方だ。
大人同様に図書館に癒しを求めて遊びに来る子供も少なくない。


だからこそ、図書館は、子供には子供のルールを定めたのだ。


保護者と一緒に来館した子供には、チャイム以降は保護者と一緒にいるように指導される。
これは、この時間になっても児童室を無料の保育所と甚だ激しく勘違いしている保護者たちへの示しだ。
万が一、このメロディが終了しても子供を迎えに来ない保護者には、武蔵野第一図書館のローカルルールとして、迎えの遅れた理由と保護者の住所氏名などを記入した報告書の提出を義務付けてある。
このような親たちは、何度か館長から叱咤されて痛い目を見てようやく、メロディが鳴るや子供たちを迎えに児童室へやって来るようになった。


警備担当の防衛部と特殊部隊の隊員たちは、館内では子供たちが残っていないかの確認をし、館外では遊びに夢中になっている子供たちに声をかけ、通用門まで送っていくことになっていた。





「お疲れ~」


手塚に声をかけたのは、柴崎だった。
まだ一般の会社が就業時間のこの時間帯は、カウンター業務にもかなり余裕ができる。

手塚は、館内の見回りを終え、図書館入り口へとやって来たところだった。


「お疲れ。今日は、あっさり終わったぞ」

「あらそう、こっちも 「無料保育所」 じゃなかったから、あっさりと終了よ」


駆けながら後ろ向きにこちらに手を振る子供たちに、ばいばいと手を振り返す。
西に大きく傾いた夕日を全身に浴びて、子供たちは元気に走り去っていった。


「転ぶなよ…」


ぽつり呟く手塚の横で、柴崎はくすりと笑いを零した。


「なんだよ。転ばれると面倒なんだよ。医務室に連れてって、親に連絡して」

「はいはい。そうね、面倒ね」

「わかってるなら、笑うな」


つっけんどんに言い放つが、まだ手を振ってくる子供がいる手前、怒鳴るわけにもいかず、手塚は口をへの字に曲げて抗議の表情をあらわにした。


「ん、あんた、ちょっと変わったな、と思って」


ひらひらと、手を振りながら、柴崎が告げる。


「ちょっと前のあんただったら、「転んだのはそいつが悪い」 とかなんとか言いそうだもの」


告げられた言葉に思い当たる手塚は、「うるさい」 という言葉を心の中に留めた。
しかし、察することに長けたこの女は、あっさりそれを指摘する。


「今、「うるさい」 って思ったんでしょう。ふふ、なーんだ、自分でも思ってんだ」

「うるさい。うるさい。仕方ないだろう。いつも組んでるのが笠原じゃ」


八つ当たりの視線で、手塚は子供たちと通用門へと向かう郁を見つめた。


***** ***** *****

「郁ちゃん、またあしたね~」

「郁ちゃん、あしたは何して遊ぶ?」


郁の隣を子供たちが代わる代わる取り合う。
児童室での企画を何度か担当したときに、知り合った子供たちが多い。


誰に何を言えば、自分の要求が通るのか。

子供はそれを見極める力に長けている。
誰に甘えればいいのかを見抜くことなど、朝飯前だ。

子供たちにそれを見極められた郁は、いつも子供の中心にいた。

もっとも、ただ単純に子供の要求を通すことはしない。
ただ甘えさせるわけではない。

きちんとルールを守らせて、その上で、子供たちと向き合うのだ。
子供たちも郁に対しては、そのことを承知の上で、まとわりついてきていた。


「郁ちゃん、お手手繋いで~」


ひとりの子が郁の手を引いた。
すると、今まで遠巻きにしていた子供までもが、郁の手をめがけて走り寄ってきた。


「僕も」

「わたしも」


二本しかない郁の手に何本もの手がまとわりつく。


「はいはい。じゃあ、みんな、お隣さんと手を繋いでね」


はい、はい、と次々に子供たちの手を取って、隣の子の手と繋いでいく。
そして、最後に自分の手と子供の手を繋いで、郁は歩き出した。


「♪夕焼け小焼けで 日が暮れて♪」


歌うのは、図書館内に流れていたメロディ、夕焼け小焼けの歌だ。


「お手々繋いで みな帰ろ からすと一緒に 帰りましょ♪」


ちょうど歌い終わる頃、通用門に着いた。
郁は手をそっと離す。


「気をつけて帰るんだよ。寄り道しちゃだめだよ」


注意する文言はいつも同じだ。
一番大切で、守らなければいけないことだからだ。

子供たちは名残惜しそうに、けれど、聞き分けよく、ばいばいと手を振ってそれぞれの帰路についた。



「今日も賑やかだったな」


子供たちに手を振る郁の後ろに、いつの間にか堂上が立っていた。

いつの間にか、というのはあくまでも郁の観点であって、実際は図書館を出てから通用門までずっと、堂上は郁の後ろを歩いてきたのだった。

その理由は、手塚に共通する。
加えて、恋人である郁の心配もあった。



少し前、こうして子供を通用門まで送ってきたら、郁は声をかけられた。
声をかけたのは、ひとりの子供の男親だった。
堂上とそう歳の違わない容姿と格好だった。

子供を何度か迎えに来るうちに、郁を見初めた、という。
郁をデートに誘おうと必死に口説いていた。

最初のうち、郁はなぜこの人は自分を熱心に誘うのだろうか、その理由がわからなかった。
子供を通用門まで送るのは、子供を図書館敷地内に残さないためで、別にその子だから送ってきているのではない。
それなのに、なぜ、と。

腕を掴まれて、はっと気付いたのだ。
自分が今、口説かれていることに。

そのときには既に堂上と気持ちが通じ合っていたから、郁は頑なにその申し出を断った。
しかし、相手は怯むことなく、口説き続けた。


キレたのは、堂上だった。
つかつかと、相手に近づき、郁を掴んだ腕を引き離した。

そして、相手に一言
「俺の部下に手を出すな」
そう言い放った。


後から、本当はあの時「俺の女に手を出すな」と言いたかった、と堂上は郁に話した。
子供がいる前で、それを口にするのは躊躇われた、と。


その一件があって、郁が子供たちを通用門まで送るのは問題があるから、郁をその業務から外すと、堂上は玄田に進言した。
しかし、その進言は子供たちの要求であっさりと覆されてしまった。
それだけ、郁の人気が高い、ということでもあるのだが。

それ以来、郁が子供たちを通用門まで送るときには必ず堂上がつくようになった。


「今日も無事終了です」


敬礼付で郁は堂上に微笑んだ。
堂上はそんな郁を微笑ましく見つめた。



ゆっくり図書館へと戻る。
子供たちは帰したが、まだ閉館時間まで警備業務は続く。


と、突然堂上がわき道に逸れた。
図書館への最短路ではなく、敷地内の公園を歩いて回る道へと入ったのだ。


「堂上教官、あの……警備のルート、こっちでしたっけ?」


教官が間違えるとは思えず、思わず自分の確認ミスかと、郁は慌てて堂上に訊ねた。
すると、堂上は、くるりと郁に向き合うと、眉間に皺をひとつ増やして言った。


「子供でも、お前と手を繋いでいるのを見るのは、癪だ……それに……」


堂上は口ごもると、ぷいと横を向いて、ふんと手を差し出してきた。


「この間、願いごとは叶えてやるって約束したしな」


つい先日、デートの帰り道、ふたり一緒に夜空を眺めた。
空が気持ちよく澄んでいて、星がとてもきれいだった。
そして、とても離れがたかった。

ふいに流れた流星に、郁は 「いつも手を繋いで歩けますように」 と願った。
本当のところは、郁がわざわざ願い事を唱えたのではなく、郁の願いが駄々漏れだったに過ぎないのだが。

ささやかな郁の願いごとを堂上はちゃんと覚えていたのだ。


「ここは、監視カメラからも見えてないから、安心しろ」


そう言うと、いつまでも手を差し出さない郁に焦れたように、郁の手を掻っ攫っていった。


「や、あの、その……」


驚いた郁は言葉にならない言葉を並べて、それでも繋がれた手を振り解くことはしなかった。
繋がれた手の温かさが、その心地よさが、嬉しかったからだ。


「手を繋いだって言っても、相手は子供ですよ」

「小学校の高学年にもなれば、大人扱いだ」

「やだ、あたしより小さいのに」

「俺もお前より小さい」

「あああ、そういうことじゃなくて」

「じゃあ、どういうことだ」


無声映画ならばきっとラブロマンスの光景なのに、なぜ言葉があるとコメディになってしまうのか。

ふたりとも、そのことに気付きながら、素直になれず、ああでもないこうでもない、と言い合ってしまう。

素直になるのは、難しい。

心の中で、お互いに同じ事を呟いているなど、思いもしないことだった。


再び行動を起こしたのは堂上だった。
繋いだ手をそのままに、つかつかと歩き出したのだ。
郁は引きずられるように、堂上の後を追った。


「教官、堂上教官、急にどうしたんですか?この手、まずいですって」

「このままでいい」

「よくないですって」

「いい。言うことを聞かない部下を業務に戻す途中だと言う」

「えええ、ひどーい。あたし、堂上教官の言うこと、ちゃんと聞いてるじゃないですかぁ」

「ああ、つべこべ言うな」

「つべこべ言います」

「俺が繋いでいたいんだ」


堂上は一気に言うと、郁に向き直って、手を握り締めた。


「俺が繋いでいたいんだ。お前のぬくもりを感じたいんだ」


その言葉を聞いて、郁はやさしく微笑んだ。


「嬉しいです。あたしも教官と手を繋いでいたいです。ずっとずっと、繋いでいたいです」


郁も堂上の手をそっと握り締めた。


***** ***** *****


「ああら、あのふたりったら……監視カメラからは死角でも、ここからは丸見えなのよ。知らないのかしら?」


図書館入り口から、カウンターへと歩き出した柴崎が手塚の顔の前に手を出して、窓の外を指差す。
手塚はその指に従って、視線を窓の外へと移した。


堂上と郁が相思相愛の仲だということは、特殊部隊内では周知の事実になっている。
初めは、からかいややっかみもあったが、それも、一通り過ぎた。

一種の洗礼というものらしい。

過ぎてしまえば、見守るだけで、手出しも口出しも一切しない。
特殊部隊が大人の集団と言われる所以だ。


無言で郁たちを見つめる手塚を見て、柴崎は俯き加減で言う。


「ああ、あんた、ああいう光景見るの、だめ?」

公私混同、嫌いだもんね……


言外のそう含まれた言葉を、手塚はあっさり否定した。


「いや、そうじゃない」

「そう……なら、どうしたの」

「…………」


何も言わずにじっと外を見詰める手塚を柴崎はそっと横から見つめた。


「ちょうどこの時期だったと思う。あまり丈夫でなかった母さんを見舞いに行った帰りだった。兄さんと手を繋いで帰ったんだ。兄さんの手、温かくて大きいな あって……。友達と遊ぶだろ。兄弟がいるやつだと、そいつの兄さんや姉さんが遊びの先に迎えに来るんだ。そして、手を繋いで帰っていく。俺の兄さんは、歳 も離れてたし、あんまりそういうことなくて、すごく友達が羨ましかった。それが、兄さんと手を繋いで帰ったんだ。俺、嬉しかったんだ」


手塚の兄との確執を目の当たりで見ている柴崎には、痛いほど手塚の気持ちがわかった。


「あんたの兄さん、あんたと今でも手を繋ぎたいって思ってるわ、きっと」


目指す場所(ところ)は同じなのに、道順を違えてしまった兄弟が、いつの日か、笑って手を繋げればいい、と柴崎は思った。





[あーあ、はんちょーったら、また、派手にやってるね。今日の日報になんて書くんだろうね、楽しみだね~」


堂上と郁の珍道中を見ていた手塚と柴崎の後ろには、いつの間にか、小牧が立っていた。
くつくつ、と小さな笑い声を堪えていた。


「ああ、もうこんな時間。いけない」


小牧の声で、ふたりは、まだ業務時間内であることを思い出した。
柴崎は慌てて、カウンターへと急ぎ、手塚は、小牧と一緒に館内警備へと戻った。


「ごめんね、手塚。すっごくいい雰囲気だったのに」

「いい雰囲気って……」


小牧の一言に手塚は二の句を繋げずに黙り込んだ。


「ごめんごめん。堂上たちを見てるふたりが、今にも手を繋ぎそうだったんで、邪魔したかなって」

「……そうですか……」


手塚はふと先ほどの柴崎の言葉を繰り返した。


『あんたの兄さん、あんたと今でも手を繋ぎたいって思ってるわ、きっと』


それを思っているのは、兄ではなく自分なのだと、手塚は気付いていた。
心のどこかで、兄との距離があの頃のように近くなることを願っていることに気付いていた。

けれど、それを許さない自分がいて、許せない現実がある。

だからこそ、柴崎は手塚の気持ちを兄に置き換えて言ったのだろう。
柴崎の気遣いに手塚は小さく感謝した。



「手塚も秋の夕暮れは、人恋しくなるんだね、意外だけど」

「意外は、余計です。そういう小牧教官も人恋しそうですけど」

「うん、恋しいよ」


揶揄られて、悔しくて、揶揄り反したのに、肩透かしを食わせられる。
手塚は、いつもながら小牧の掴み所のなさにため息を吐いた。


「秋の夕暮れって、さびしそうじゃない。日が暮れて、影が伸びて、どこもかしこも境界線があやふやになって。自分の存在すらあやふやになる。誰かのぬくも りでもなけりゃ、自分のことすら忘れてしまいそうになる。不思議だよね。他の季節の夕暮れには、こんな気持ちになることはないのにね」


仮面のずれた笑みを浮かべて、小牧は呟いた。
どこを切っても正論で、めったに自分の気持ちを表に出さない上官の一面を見た手塚だった。


「秋だから、こんな気持ちになるんでしょうか、ね」


いつになく、自信なさげな部下の言葉に、小牧はぽんと手塚の頭に手を乗せた。


「うん、きっと誰もがそうだよ」


手塚は黙って頷いた。



館内警備に戻って、しばらくすると、小牧が足早に開架書棚の先を曲がった。

子供たちは帰したはずだが、保護者と一緒に来館している子供たちはまだわずかだが残っている。

子供か?
それとも、不審者か?

気を引き締めて、手塚も小牧の後に続いた。
開架書棚のふたつめを曲がったところで、手塚は己の察しの悪さを呪った。


小牧の小さなお姫様、毬江が来館していたのだ。

館員と来館者、という立ち位置に見える微妙な距離を保って、ふたり向かい合っていた。
夕刻の静かな館内に、かちかちと携帯を叩く音がかすかに響く。

毬江が何かを打って、その画面を小牧に見せる。
小牧が見たこともないような笑みで、頷く。


ああ、手を繋いでるんだ。


手塚は、ふたりを見て、そう思った。
実際に手を繋がなくても、手を繋いだのだと。



「いいなあって思ってるんでしょ」


後ろから声をかけられて、手塚はびくっと跳ね上がった。
くすりと笑ったのは、柴崎だった。


「ったく、なんだよ。驚くだろ」

「しーっ、邪魔しちゃ悪いじゃない」


人差し指を口の前に立てて、柴崎は手塚の後ろに体よく隠れた。
自分の後ろでそっと息づく他人の体温を心地よく感じる。
新しく、懐かしいその感覚に手塚はしばし浸った。


「ああ、いいなあ。どうして秋って、こうも人恋しくなっちゃうのかしら。一人身は辛いなあ」


手塚の返事をあからさまに待ちながら、あくまでも独り言のスタンスを崩さない柴崎の独り言が聞こえた。
柴崎のこういう問いかけにも、だいぶ慣れた。
真剣に答えても、邪険に答えても、柴崎に揶揄られる結末は決まっている。


「ああ、いいなあ。どうして秋って、こうも人恋しくなっちゃうのかしら。一人身は辛いなあ。だから、今夜飲みに連れてってよ、手塚」 って続くんだろ、どうせお前は」


柴崎の声マネで答えてやれば、当の本人はにんまりしている。


「あら、成長したのね、手塚。乙女心がわかるようになったじゃない。ああ、そうね、茨城県産純粋培養乙女と一緒にいるんだもの。勉強になるわよね」


小首を傾げて頷く様は、普通の男ならば胸キュンのポーズに見えるのだろう。


『詐欺だ』


手塚は心の中で、盛大に叫んだ。




「ああ、手塚、ごめんね」


わざと置いていったくせに、つい置いていってしまったことに摩り替えてしまう小牧の鮮やかな手管に、手塚は苦笑を返した。


「いえ。ただ、そろそろ閉館時間も近づきますから」

「ああ、戻ろう」


小牧は、毬江にじゃあと軽く手を上げた。
毬江は、ぺこりと微笑みながらお辞儀を返した。


そんなふたりを、柴崎と手塚は微笑ましく羨ましく見ていた。


***** ***** *****


その日の業務を無事に終えて、特殊部隊事務室へ戻った小牧と手塚は、隊員からやんややんや、盛大にからかわれている堂上と郁を見ることになる。
手を繋いだ瞬間は監視カメラの死角だったからわからなかったにせよ、その後、手を繋いだまま歩く堂上と郁の姿は、警備中の大半の隊員に目撃されていたのだ。


「上官の特権乱用だよなあ」

「笠原の手、引っこ抜けそうだったぞ」

「いくら聞き分けないからって、なあ」

「言うこと聞かないって、跳ねっ返りはいつものことだろう」


先輩隊員たちのからかい言葉は、あくまでもからかいと聞き流している堂上と違って、郁はその言葉を額面通りに受け取ってしまう。


「ちょーっと待ってくださいよ。あたし、何にもしてないですよ~聞き分けないって、ちっさい子供じゃあるまいし」


今日も、いちいち反論してしまう。
それが、楽しくて、かわいくて、先輩隊員たちのからかいは留まるところを知らない。
引き際をいつも逃して、泥沼に入り込む郁だった。
助け舟を出すのは、決まって堂上だ。


「笠原、その辺にしとけ。そんな戯言、いい加減聞き流せ」

「えええ、あたし、悪くないのに、こんな言われ方しなきゃならないなんて、解せません」

「なら、あれか?俺が全部悪いとでも言うのか?」

「そんなこと言ってません」

「なら、何だって言うんだ」

「だって、手を繋いだの、堂上教官が先じゃないですか。あたしは繋がれたんです」


この場が、特殊部隊事務室の面々の前だということを、うっかり忘れた郁の一言で、爆笑の渦が起こる。


「そうかそうか。堂上が先に手を出したのか?」

「違いますって」

「笠原は繋がれたって言ってるぞ」

「そうじゃありませんって」


こうなると、堂上も郁も勝てない。
何を言っても、揚げ足を取られ、やり込められてしまう。
そういう集団なのだ、特殊部隊の男たちは。


この泥沼を打破したのは、小牧だった。


「そのくらいにしてもらえませんか?諸先輩方。これ以上やられると、今後の堂上班の覇気に影響しますし、堂上の指揮権も危うくなりますから……」

それに、と言いかけて、ぐるりと小牧は一周見回した。

「人の恋路を邪魔するヤツは、って言いますよねぇ」

二周目を回る小牧の視線は、現在進行形図書隊内恋愛組で一々止まる。
その度に、睨まれた隊員の口が、自動ドアのように、しゅっと閉じられたのだった。


『絶対にコイツを敵には回さねえ』


その場にいた誰もが、固く心に誓った。




小牧の取り成しで平静を取り戻した特殊部隊事務室は、淡々と終了業務が進められた。
日報を書き、終わったものから帰宅していく。


手塚も日報を書き上げ、班長である堂上の印をもらい、机上を片付けた。

ぶるる、と携帯が揺れて、メール着信のランプが点滅した。
メールの送信者は柴崎だった。

たった一行、業務が終わったことを告げられていた。
しかし、その後に、異様に改行マークが続いている。

スクロールキーで送ると、一画面送ったところで、メッセージが現れた。


『帰りに酔った振りして、手、つないだげる』


「ばかやろう」


手塚は小さく呟いて、事務室を走り出た。


手塚の隣の机では、郁が日報と格闘していた。
時々、顔を上げて堂上を見ては、赤くなって俯いた。


そして。


繋いでいた手にまだ残る堂上のぬくもりをそっとそっと、大切に抱きしめた。



fin.


あとがき
たぶん、初めて書いたレタスサラダの次に思い入れの強い作品です。
いろいろ裏設定をしたり、ひとつの場面の台詞をいくつも考えました。
生みの辛さもあったけど、生みの楽しさも味わいました。

感想などお待ちしています。
アンソロに参加させていただいたときにいただいたコメントは、大事に大事に仕舞ってあります。

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