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図書館戦争に愛を込めて☆熱く語らせていただきます。堂郁、手柴中心二次創作サイトです。
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手柴の新年です。
これで、堂郁、小毬、手柴と揃いました。
それぞれが新しい年に希望を持って迎えて欲しいと思って書きました。
ちょっと自己満足です。

この手柴はいろいろ言い訳があるんですが、最たるものは未踏の地の話を書いたということ。
ご存知の方が読まれたら、知ったかぶりがばれるというものです。
間違いがありましたら、こっそり教えてくださるとうれしいです。

『fortune cookie』
手柴   当麻事件翌々年正月   だから困るんだ。




携帯電話が鳴った。
マナーモードにしていることが多いから、久しぶりにメロディを歌う携帯が誰のものだったのかを思い出すのに、柴崎はしばし時間がかかった。


「おねえちゃんの携帯、鳴ってるよ」


妹の桃子がコタツに寝転がったまま指を差す。
実家の自分の部屋はそのままあるのだが、帰省中は起きている時間のほとんどを居間で過ごすから、携帯電話は居間の仏壇の横に置きっぱなしになっていた。


「わかってるわよ」


コタツの中の桃子の足を一蹴りして、柴崎はのそのそコタツから這い出た。


「おねえちゃんの着歌、古っ」


蹴られたお返しに桃子が嫌味を放つ。
そんなことにはお構いなしに、携帯を手にした。

画面に表示されたのは、手塚の名前。
柴崎は通話ボタンを押しながら、カレンダーに目をやった。

今日は三日。
カレンダーの関係で、柴崎の休みは明日の四日までとなっている。
手塚は、昨日二日まで勤務で、今日三日から年始休みのはずだ。


「もしもし」

―― 柴崎か?

「あたしの携帯にかけてるんでしょうが」

―― そうなんだけど……あけましておめでとう。

「おめでとうございます。本年もよろしく。で、なんの用?」


挨拶だけ済まして、間髪いれずに柴崎は用件を問う。
新年の挨拶なら、年賀状ももらっているし、メールだって送られてきている。
いったいなんの用なのだろうかと、気になった。


―― いや、用ってほどのことじゃないんだけど…


歯切れ悪い手塚に、柴崎も無言になる。
自室で取った電話なら、根掘り葉掘り、あれこれ言葉を発することもできるが、ここは居間だ。
コタツに潜って、ぱらぱら雑誌をめくりながらも、耳はしっかりこちらを向いている妹がいる。
へたなことは言えない状況なのだ。


―― 初詣に来た。

「そう。混んでるでしょう?」

―― ああ。結構な人出だな。

「そうねえ。新年の詣では特別だから。あんたが初詣なんて、ちょっと意外だわ」

―― いいだろう……くしゅん。

「お寺さんとか神社って、石畳だから、冷えるわよ」

―― わかってる。やっぱり寒いな。

「冬だもん。こっちはもっと寒いわよ」

―― そうだな。

「東京はあったかなお正月だって、テレビで言ってたわ」


電話の向こうで手塚がくしゅんとくしゃみを連発して、会話が途切れた。
がやがやと人の話し声が聞える。
どこか聞き覚えのあるイントネーションに、柴崎は懐かしさを感じた。
自分と同じこの地に生まれ育ったものが、この地を離れかの地で暮らしているのだと思った。

しかし、次の手塚の言葉でその疑問は思い違いだと知らされる。


―― 俺、紅白の鏡餅って初めて見た。


沈黙の後、手塚がぽつりと言った。


「鏡餅って紅白でしょう?何言ってんの?」


仏壇横の神棚には、白の上に紅が重なった鏡餅が飾られている。
柴崎はそれを見て、ふふと鼻で笑った。


―― そうなんだな。俺の家は、白一色だったから、知らなかった。紅白の鏡餅は。


手塚の言葉に柴崎は小さく息を呑んだ。

忘れていたのだ。
ここが、実家だということを。
ここが、金沢だということを。


金沢近辺の鏡餅は、紅白と決まっている。
どこを見ても、紅白だから、地元人はそのことに誰も疑問を抱くことはない。

柴崎もそうだった。
上京するまで、鏡餅は紅白だと思っていた。
ところが、上京して、関東の鏡餅を見て驚いたのだ。

真っ白だったからだ。
新しい風習なのかと思いつつ、あちこち見ても、真っ白な鏡餅しか見ない。
紅白の鏡餅こそが、地元の風習なのだとわかったのは、つい数年前のことだ。


「ちょっと、あんた、どこにいるの?」


柴崎は携帯を耳に当てたまま、廊下にかけてあったオーバーを手に取り玄関から飛び出した。


―― 風変わりな神社の門の前。


その一言で、柴崎は今手塚が『尾山神社』にいることを知る。

尾山神社は金沢城に隣接する、藩祖前田利家を祀る神社だ。
「和風とも洋風とも竜宮城ともつかない」とよく語られる風変わりな神社の門がある。
神社としての歴史は浅いが、金沢城、兼六園とともに観光客が訪れる有名どころだ。


「そこに行くから、待ってて」


柴崎は携帯に向かって叫ぶと、近くのバス停にちょうどやってきたバスに飛び乗った。


*****


今年の正月休みは、三日からだった。

当麻事件をきっかけに、兄との確執も氷河が解けるように少しずつ解けていた。
その証拠に、新年には兄から年賀状が届いた。
メールではなく、直筆の年賀状だった。
無機質なメールと違い、年賀状からは相手の気持ちが溢れている。
今でも、兄と自分の歩む道は別々だと思っている。
しかし、その道がところどころ交わっているのかもしれないと、近頃では感じ始めていた。

二日の勤務を終え、帰省する連絡を実家にした。
何度かコールの後で、その電話を取ったのは……兄の慧だった。
手塚からの電話を何事も無かったかのように兄は取った。
けんか腰になる手塚を電話の向こうで微笑みながら、新年の挨拶をして、母へと電話を取り次いだ。


「あなたが帰ってくるだろうからって」


母の近頃では聞くことのなかった明るくうれしそうな声に手塚は言いたいことを飲み込んだ。
手塚の心中をよそに、母は兄の帰省を心から喜んでいた。


「ごめんね、母さん。帰るの、一日遅れる」
明日から勤務の同僚が風邪を引いたんだ。
もう一日勤めてから帰るから。


そう母に告げて、手塚は電話を切った。
帰省するつもりで寮は出た。
乗り換えの駅で電話をしたら、そんな状況だった。
手塚は、目の前に止まった高速バスにとっさに飛び乗った。
そのバスの目的地が金沢だったからかもしれない。


初めて訪れた金沢は、日本海沿岸特有の、重い暗い空をしていた。
湿った空気は雪のにおいをまとっている。

これが柴崎の生まれ故郷かと大きく息を吸い込んだ。

高速バスは早朝金沢に到着した。
加賀百万石の城下町は静かに手塚を迎えてくれた。

早朝から開いていた珈琲ショップで時間をつぶす。
街行く人を眺めた。
今はどこの都市でも元旦から営業している店舗が多く、取り立てて初売りのめでたさはない。
三日ともなれば、街は普段の休日と変わらぬ雰囲気だった。


「まだ、早いよな」


携帯の時刻表示を眺めて、手塚は呟いた。


*****


『そこに行くから待ってて』

柴崎からそう言われた手塚は、もう一度不思議な神社の門を見上げた。
店が開き始めるまで珈琲ショップで暖を取ってからずっと歩きまわっていた。
金沢を訪れたのが初めてということもあり、歴史ある建造物を見て歩いた。

神社仏閣には初詣の人々が多く、賑わっている。
熱心に拝む人々に混じって、手塚も拝んだ。

神様仏様を信仰しているわけではないし、神頼みなどもってのほかだと思っている。
どんな運命も自分の力で切り開いてこその人生だと思っている。
けれど、柴崎がくれたお守りを身につけて、どこかにほわりとする安心感があることに気づいた。



「気休めだけど、な」


ぱんぱんと拍手を打ち、拝礼する自分に言い訳がましく呟いた。


重い空から、ふわりふわり、白い雪が落ち始めた。
手塚は門の中に立ち、見慣れない景色を見上げていた。


「待った?」


手塚は、息が切れ切れの柴崎を初めて見た。
どんなときでも、静かに落ち着き払って現れるのに、今日は頬を上気させ肩の上下も激しい。


「いや、そうでもない」


手塚は首を振った。
柴崎はなんとも言えない表情に顔を歪ませた。

雪がちらつく中、ゆっくりと歩き出した。


「どうしたの?今日から休みのはずでしょう?」


呼吸が落ち着いた頃、柴崎が訊ねてきた。
手塚は、昨夜の実家への電話のことを話した。


「そう……お兄さん、一歩進めたんだ」

「唐突にな」

「お母さん、喜んだでしょう」

「ああ。だから、何も言えなかった」

「だから、家に帰れなかった」

交わした言葉はそれだけだった。
肩が触れ合いそうな距離で、ただ並んで歩いた。
神社や寺の前を通るとき、手塚は柴崎の半歩前に出て、参拝人と柴崎がぶつからないように歩いた。
柴崎ははぐれないように、手塚のコートの裾をぎゅっと握り締めた。

金沢駅に着き、高速バスの時間を確認する。


「帰りもバスにするの?」

「ああ。乗り換えがめんどい」


そうね。

柴崎はそう呟いた。
柴崎は鉄道で帰京する。
乗り換えの面倒さは知っている。
バスならば、時間はかかるものの、駅から駅へと体を運んでくれる。
慣れない土地ならば、そのほうが楽だ。


「悪かったな。呼び出したりして」


バスの出発時刻まで、駅ビルの土産物を物色して歩いた。
明日帰京する柴崎が「付き合って」と言ったからだ。

城下町らしい名産品が所狭しを並べられている。
物産展などにあまり足を運ばない手塚には、どれもこれも珍しいものだった。

柴崎は、消費期限を確認しつつ、手際よく土産物を選んでいく。
数が必要なもの、かさばらないもの。
見たことのない表情で土産物を手にする柴崎を手塚は楽しく見つめた。


「じゃあ、俺、そろそろ行くわ」


柴崎の買い物もちょうど済んで、一息つこうと喫茶店に入った。
お茶を飲み干したとき、そう手塚は告げた。
金沢に来たときのように、出発寸前のバスに飛び込むことは、もうしない。


「うん。気をつけて。あたしは明日戻るから」

「ああ。俺は今夜、実家に帰って、あさって寮に戻る」

「そう……」


柴崎の顔が一瞬、寂しそうとも取れる表情に曇った。
手塚は、何気ない口調でこう告げた。


「それとも、明日一緒に戻るか?」


口角を上げて、にやりと笑った手塚の頭を柴崎は拳骨で思い切り叩いた。


「いってえなあ」

「お年玉よ。手塚のくせに、生意気なのよ」


ふくれっ面でぷいと柴崎は横を向いた。
手塚は叩かれた頭のてっぺんをさすった。


「兄さんの声を聞いて、心が折れそうになった。そのとき、お前の顔が浮かんだ。だから来た」


手塚の告白に柴崎は何も言わず、ただ頷きを返した。


バス停まで手塚を送った柴崎はバスに乗り込む手塚に、土産の袋を渡した。


「こっちの人がお正月にいただく縁起物よ。辻占(つじうら)っていうの」

「そうか、ありがとう」


バスの扉が閉まり、手塚の乗ったバスは一路東京を目指して走り出した。
柴崎はその走り去る後ろ姿をじっと見つめていた。


バスの中で、手塚は柴崎から渡された土産物の袋を開けた。
中には、花の形をしたころんとした小さな砂糖菓子が入っていた。
そのひとつを手に取って、端を齧ってみた。
齧った端から中を覗くと、なにやら入っているらしい。
真ん中をゆっくり開くと、小さく畳まれた紙が入っていた。
折りたたまれた紙を慎重に広げた。
その紙はおみくじの類らしかった。

『惚れた弱みも少しある』

手塚は苦笑して、その紙を再び綺麗に畳みなおして、胸ポケットに入っていた手帳へとしまいこんだ。


「少しどころか、でかすぎて、困ってるんだ」


呟いて、手塚はゆっくりと瞼を閉じた。


fin.


あとがき
新年の手柴です。
別冊で柴崎が手塚にお守りを渡した次の年、の設定です。

兄慧との距離の詰め方にいろいろ悩む手塚。
兄慧はぽんと飛ぶんだけど、弟光は匍匐前進なので、一気に詰め寄られると後ずさりしちゃうんです。
そんなとき、手塚の脳裏に浮かぶのは、いつだって柴崎です。

手塚に金沢まで出かけてもらいました。
私は金沢は未踏の地なので、今回 SS を書くために調べました。
さすが加賀百万石の城下町です。
見所満載なのですね。
お正月の伝統もあって、歴史を感じます。
地元の方から見たら、私の付け刃の知識で書いた話は穴だらけで「こんなの金沢じゃない」って思われるでしょうね、すみません。
間違っていたら、こっそり教えてください。

タイトルは辻占(つじうら)の意です。
柴崎が手塚にお土産に渡した郷土菓子です。
以前、金沢に行った友人のお土産にいただいたことがあって、思い出して調べたら、辻占は金沢の正月菓子らしいということがわかりました。
おみくじの内容もいろいろあるようですが、手塚が引いたものは調べる過程で知ったものです。
こんな内容もあるんだと驚いたので、使いました。
アメリカの中華料理店では占いの入ったクッキーのことをこう呼びます。
月餅やパイに入ってるのもあります。
辻占煎餅はわくわくします。

読んでくださりありがとうございました。
感想をお待ちしてます。 ↓ に拍手を置いてみました♪


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