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図書館戦争に愛を込めて☆熱く語らせていただきます。堂郁、手柴中心二次創作サイトです。
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『 Moon River 』はたぶんみなさんご存知の曲だと思います。
Audrey Hepburn 主演の映画 「Breakfast at Tiffany's」(邦題:ティファニーで朝食を)の主題歌です。
バラードの素敵な曲で、雰囲気があります。
歌詞はすごく前向きでアメリカらしい夢の追いかけ方をしています(と思っています)。

ふとこの曲から、浮かんだのが、手柴でした。
内乱 P344 の仕事のためならハニートラップも平気でできるという柴崎を手塚がどう受け止めていくのかというのが気になったんです。

『 Moon River 』
手柴  内乱以降  あたしはどこに流れていくのかしら?




ポケットに入れた携帯がわずかに震えた。
メール着信の合図だ。

携帯を開けば、送信者:柴崎 の表示。
メールを開けると、件名未入力で本文のみ。
ただ 「ハイアットパーク バーボストン ピックアップお願い」
とだけ記されていた。

今までにも、柴崎から携帯メールで呼び出されたことはあった。
それは、夜のコンビニまでの付き合いだったり、飲み会で遅くなったときの迎えだったり。

担保が残っているわけではない。
ただ、自分の中にある、徐々に大きくなっていく扱い知れぬ思いが、その呼び出しを断らずに受けていた。

「件名くらい入れろって」

携帯で、ハイアットパークまでの最短の乗り換えを検索する。
時間を見れば、柴崎を迎えに行って帰ってきたら、門限を過ぎてしまう。
さらに、帰りの電車が終電ぎりぎりの線(ライン)だった。

手塚は笠原にメールで柴崎の外泊届けを頼み、自分の外泊届けも提出して、ハイアットパークへと急いだ。



ハイアットパークのバーボストンは、その夜景の美しさから、一流企業の接待に使われることで有名な場所だった。
ブラックフォーマルとまでは言わずとも、ある程度の略装でないとその入店を断わることでも知られている。

エレベーターを降りると、廊下にはフロアスタッフが立っていて、おいそれと入店できる雰囲気はとてもない。

「なんだって柴崎、こんなところに…」

ホテル名をチェックして、手塚はスーツ姿だった。
すたすたとバーの入り口に歩み寄ると、スタッフが丁寧にお辞儀をする。

「手塚と申します。こちらで待ち合わせの約束をしています」

そう告げると、スタッフはいったんサービスカウンターに確認をして戻ってきた。

「お相手のお名前を承ります」

「柴崎さんです」

「かしこまりました。ご案内いたします。こちらへどうぞ」

「はい」

片手で優雅に手塚を柴崎の待つ席へと案内した。


かすかな足音に、待ち人の到来に気づき、柴崎はゆっくりと振り向いた。
いつもの優雅な笑顔と違い、どこか緊張して、泣きそうな、今にも崩れそうな微笑だった。

「こちらでございます」

いすを引かれ、手塚は柴崎の前に静かに座った。

バーボストンは、うわさに違わない夜景の美しいバーだった。
柴崎は、手塚が入ってきたときのように、頬杖をついて、再び夜景を見た。

「綺麗だな」

手塚がぽつりと呟く。

眼下に広がるのは、まばゆい光の筋。
明るい都心部から郊外へと、何本もの光の筋が流れていた。

「ええ、綺麗。でも、私の方が綺麗だと言われたわ」

その一言で、手塚は柴崎がなぜここにいるのか、なぜ迎えを呼んだのかを理解した。





数日前、柴崎と笠原と三人で昼食を取った後、柴崎が物言いたげに手塚を引き止めた。
なんとなく二人の雰囲気を察知した笠原は「先行くね」と席を外した。
三人で歩くよりゆっくりの歩調で、柴崎はつま先を見つめて歩いた。

「どうした?」

手塚の問いかけに柴崎は、ううん、と首を横に振った。
なんでもない様子ではない。
顔を上げたら、きっと何もかも見通される不安があるのだろう。
だから柴崎は顔を上げずに下を向いたまま歩いていた。

そのうち、ふいに顔を上げ、柴崎は誰もを魅了する笑顔で振り返った。

「そのうち綺麗な夜景を見に行きましょう」

「なんだ?それ?」

脈絡不明な会話に手塚は不可思議な表情を浮かべた。
そんなことにはお構いなしに、柴崎は口をきゅっと結び大きく息を吸った。

「飛び切り綺麗な夜景が見たいのよ」





飛び切り綺麗な夜景を見て、柴崎はおそらくハニートラップを仕掛けていたのだろう。
それが成功したのか、失敗したのかを、手塚は知る由もない。
ただ、仕事と割り切っていたはずのトラップにひどく傷ついたことだけは事実だ。





「お前の言ってた『綺麗な夜景』ってこのことか?」

手塚の問いに柴崎は答えようとはせず、ただ頬杖を崩さずに、夜景に顔を向けていた。
手塚は頬杖をつく手を引き寄せると、その手を片方の手でつかみ、今まで頬杖されていた頬をそっと撫でる。
その頬は驚くほどに滑らかで、冷たかった。

「冷えてる…」

手塚の感想に柴崎はくすりと笑った。

「冷たいおんなだもの。知ってるでしょ」

自嘲の笑いを浮かべる柴崎を手塚は悲しげに見つめた。

「あんたがそんな顔することないでしょう。好きでやってんだし。似合ってると思うのよね」

言えば言うほどに自分自身を言葉の刃(やいば)で傷つけていく。
心の中にとどめておくこともできず、口にすることで、心の錘を軽くしようとしているだけなのだろう。

ふたりで夜景を見つめ、静かな時間(とき)が流れていった。





「ムーンリバー…」

そっと目を閉じて柴崎が呟いた。
耳を澄ませば、流れる演奏に聞き覚えがあった。

「ムーンリバーか…名曲だな」

「好きだわ、ムーンリバー」

柴崎は目を閉じたまま、掴まれたままだった手をそっと手塚の手に沿わせた。
手のぬくもりは、先ほど触れた頬の温度より温かった。

「『虹の端には金のつぼが埋まってる』って知ってる?」

柴崎の会話は脈絡がない。
直前に言った会話と発せられた言葉のつながりが見えない。
つながりを見せないことで、自分を過剰に守っているのだろう。


柴崎を見るようになって、手塚はそのことに気づいた。
まわりを見えすぎるほど見てしまうこの女は、自分がまわりに見えることをひどく嫌う。
どこまでが本心でどこからが嘲りなのか。


「埋まってると思うのか?」

「夢見ることは悪いことじゃないわ。信じているから、虹の端に行こうと思うのよ」

「そうか」


会話は途切れ、再びふたりは窓へと視線を移した。
光の流れは止まることなく流れている。

そう、ちょうど、河のように…

どこへ流れていくのか、どこへ流れていこうとしているのか。

ただ、手塚は、柴崎が行こうとしているところに自分も行きたいと思った。
曲がりくねったその先に何が待っているかわからない。
曲がるたびに、絶望に打ちひしがれ傷つくかもしれない。
それでも、柴崎は進むだろう。

『いつか胸を張って渡って見せるわ』

静かに流れるムーンリバーに、そんな歌詞を見つけて、手塚は目の前の柴崎をもう一度見つめた。

いつか俺も一緒に渡って見せるさ。

そう呟きながら。


fin.


あとがき

手柴初書き SS です。
シチュエーションも決まってて、それぞれに言わせたいせりふも決まっているのに、場面描写が追いつかない、なんとも情けない仕上がりになってしまいました。

手塚と柴崎の関係は、心情的には恋人だけど、まだお互いに恋人と言ってしまっていいのだろうかと葛藤している最中です。
それなりに付き合ってるけど、言葉で直接思いを伝えることはしていません。

柴崎は仕事だと割り切ってハニートラップを続けます。
手塚もそれを見て見ぬ振りをする。あえて止めない。
ハニートラップは成功したって失敗したって、柴崎は傷つくと思います。
自分で自分を納得させるんだけど、だんだん一人で立ち上がることがしんどくなる。
手塚はそれをわかっているけど、柴崎から求められなければ、自ら赴くことはしない。
それが二人の境界線だから。
境界線を越えたらどうなるのか…
別冊Ⅱでこのふたりの未来がどう描かれているのかを楽しみに待ちたいと思います。

BGM はもちろん「Moon River」でお願いします。
歌詞や訳は検索していただければすぐにお分かりになると思いますので割愛します。
「 I'm crossing you in style some day 」は柴崎の気持ち
「 wherever you're going I'm going your way.」は自覚していないお互いに対する気持ち
歌詞の解釈は人さまざまなので、ひとつの見方だと思っていただければうれしいです。

感想をお寄せいただけばうれしいです。
読んでくださりありがとうございました。
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関東の片田舎に住む。
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