[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
お題第三弾です。
『プロポーズ』
手柴前提手兄柴 別冊Ⅱ クソ兄貴!
注意>
手塚兄と柴崎のお話です。
手柴前提ですが、手塚至上主義および柴崎至上主義の方は読まれないことをお勧めします。
読後の誹謗中傷はお断りいたします。責任は取れません。
厳かなクラッシックの流れる控え室。
柴崎は介添え人に手を引かれ、大きな鏡の前に用意されたスツールに静かに腰を下ろした。
介添え人がウェディングドレスの長いトレーンを床のじゅうたんの上に美しく広げてゆく。
ヘアメイクの担当者は柴崎の周りをぐるり360度回って、細かな調整を施してゆく。
ウェディングドレスのひだを整えた介添え人と一周し終えたヘアメイク担当者が並んで鏡の中の柴崎を見つめ、ほうとため息を吐く。
それほどに、花嫁姿の柴崎は美しかった、
「いかがでしょう?」
関係者がずらりと並び、鏡の柴崎に問いかけた。
ここ数年で一番の花嫁花婿と噂されているらしい。
どこまで美しく仕立て上げることができるか、ヘアメイク担当者の腕の見せ所だった。
「ありがとうございます」
柴崎が微笑むと、肩が下がるのがわかるほど、担当者たちはほっとした。
そして「本日はおめでとうございます」と一礼して、控え室を出て行った。
柴崎は歩き回るわけにも行かず、鏡の中から控え室をくるりと見回した。
鏡に映る時計は、家族の到着時刻にはまだ早い。
鏡に映る自分の表情を眺めて、「幸せそうね、麻子」と呟いた。
ドアをノックする音がした。
手塚かと思い、声を出そうとしたとき、ドアが開いた。
いやな予感がした。
廊下から「お兄様、こちらです。お支度が整いましたので、どうぞ」と介添え人の声が聞こえた。
入ってきたのは、思ったとおり、やはり手塚慧だった。
柴崎は大きなため息を吐いた。
「おめでとう。麻子さん」
今までの苗字呼びをあっさり名前呼びにして慧は笑って控え室に入ってきた。
「ありがとう、という前に、どうしてあなたが入って来るのかしら?」
柴崎はにこりともせず慧を睨みつけた。
「式場の案内人に聞いたら、花嫁さんの支度ができたというんでね。ご挨拶をと思ってね」
柴崎は心の中で「この大嘘つき」と叫んだ。
柴崎家の到着時刻がまだで、新婦控え室に入れる人間は新郎以外にいないことはわかっている。
慧の見栄えと話術にあっさり式場の人間が陥落させられたことは明らかだった。
「で、返事は?」
「返事って、何の?」
「俺のプロポーズ」
柴崎は絶句した。
結婚式を今日この場で挙げようとしている人間に問い訊ねることだろうか。
慧は控え室に入ったものの、ドアにもたれたまま立っている。
柴崎に近づくこともしない。
それが新郎の兄そしての立ち位置なのだろう。
柴崎も座ったまま体を動かさず、鏡越しに慧を見ていた。
「あれ、本気だったの?」
「もちろん。本気だよ、今でもね」
読めない笑顔を浮かべて、慧はこくり頷いた。
柴崎は鏡越しにそんな慧を見つめていた。
***
当麻事件の後、慧と直接自分携帯で連絡を取るようになってからのことだ。
お互い仕事上の立場で、何度かやり取りをした。
情報保護が大前提だから、本題の会話はあっさりと。
その代わりなのだろうか、他愛無い会話を幾度も交わした。
その大半が手塚光の話題になるのは、仕方ないことだろう。
歩み寄ったかに見えた手塚兄弟の溝はそう簡単に埋まるものではなく、相変わらず弟は頑なに兄を拒んでいたからだ。
その頑なな弟から、結婚を前提に女性と付き合うことになった、と慧は報告された。
その女性は、予想通り、柴崎麻子だった。
図書隊情報部候補生の切れ者。
弟からの報告を柴崎に報告しながら、唐突に慧は柴崎にプロポーズした。
「俺と結婚しないか?」
「あたし、あなたの弟と結婚を前提に付き合ってるんですけど?」
柴崎の問いを慧は深く頷いてそれを肯定する。
電話だから無言の雰囲気が伝わるだけだが。
「承知してるよ。でも、俺も君が欲しい」
「あなたの弟と結婚すれば、あなたの妹になるわ」
「隣に欲しい」
柴崎は戸惑った。
しばらく無言が続いた。
お互いの息遣いだけがスピーカーから聞こえる。
柴崎の戸惑いを承知したように、慧が無声を打ち破る。
「いいよ、返事は急がない」
「返事しないわ」
「了承という意味で?」
「そこ間違ってる。了承以前に、あなたと結婚する話事体存在しないからよ」
「まあいいよ。光との結婚が決まれば、また会うだろうし」
と、一方的に慧が話してその電話は切れてしまった。
柴崎はただ呆然と切れてしまった携帯を見つめた。
慧には親近感を感じていた。
同じ空気、同じ色、同じ温度を感じた。
会話の奥に潜む希望に似た未来も。
手塚の横にいて感じる柔らかで包み込まれる安心感はない。
けれど、お互いが自立して認め合う強さがあった。
いつだったか、慧がぽつりとこぼした言葉があった。
「君は僕と似ている。同化できるほどに」
どの言葉に柴崎は大きく頷いた。
そう、手塚慧は自分と似ている。
たとえ一人でも高みを目指す。
そのための手段は選ばない。
自分の描く未来の実現のための努力は惜しまない。
そう思っていた。
でも、今、手塚光と付き合って、その思いは薄らいでいた。
自分ひとりで立てるほど、自分が強くないと知ったからだ。
手塚光の存在があって、自分の存在もあると思うから。
***
「これからもどうぞよろしくね、お兄さん」
長い沈黙の後、柴崎が極上の笑みを浮かべて慧に告げる。
それが返事だった。
「うん。弟をよろしく」
慧は目を伏せて長く息を吐いた。
返事など聞かずともわかっていた。
プロポーズするつもりなどなかった。
けれど、欲しかった。
図書館の未来とは関係なく、自らの隣にいて欲しかった。
最初から無理だとわかっていたのに……
「『卒業』ごっこでもしたかったの?」
「それはないかな?あのラストに明るい未来は感じなかったから」
「同感。『ローマの休日』のラストにしましょう」
「君とはこれから家族として長い付き合いになるからね」
「そうね。よろしく、お兄さん」
「こちらこそ。さて、花嫁さんのことを光に報告してやらなきゃな」
「光、泣くかも」
「そうだな」
片手を上げて、慧はドアに向きドアノブに手を掛けて止まった。
「さようなら、柴崎さん」
背を向けたまま、背筋を伸ばして慧はドアから出て行った。
その背中に柴崎もそっと「さようなら、慧さん」と告げた。
同士を失ったわけじゃない。
繋がりを絶ったわけじゃない。
けれど……
柴崎は両手をぎゅっと握り締め、心の奥底のBOXにかちゃりと鍵を掛ける。
鏡の自分に向かって「幸せそうね、麻子」と呪文を掛ける。
そして、小さく微笑んだ。
今頃新郎控え室で、手塚は慧から自分のことを聞かされているだろう。
「クソ兄貴」と捨て台詞を吐いて、ここへ駆けてくるに違いない。
この次ドアをノックするのは、きっときっと。
光だ。
柴崎はもう一度鏡の自分に向かって「幸せそうね、麻子」と微笑むのだった。
fin.
あとがき
謝らなければならないようなSSになってしまいました。
一番最初に書き上げたものは、手塚兄×柴崎のち手柴になってしまってました。
すみません、手柴祭のお題なのに。
お題にプロポーズは、手塚兄のプロポーズになりました。
柴崎も言うように、手塚兄はしれっとそういうことをしてしまいそうですもの。
プロポーズなんて、柴崎でなかったら、ふわふわOKしちゃいそうですよ、普通の女子が手塚兄にされたら。
手塚慧と柴崎の会話は行間にいろいろ埋まっています。
読んでくださった方がそれぞれ補完してくださると思います。
感想をお待ちしています。
もちろん批判もあると思います。それも遠慮なさらずにお願いします。
ただ誹謗中傷はご勘弁ください。凹みます。
読んでくださりありがとうございました。

典型的 O 型人間。
せっかちなのにのんびりや。
好物はハチミツと梅酒。