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図書館戦争に愛を込めて☆熱く語らせていただきます。堂郁、手柴中心二次創作サイトです。
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別冊Ⅱを読んで、手塚と柴崎の恋人時代を読みたくなりました。
事件後、くっついて、割と早めに結婚を決めたけど、それでも初々しい(笑)恋人時代もあったと思います。
そんなお話。

『In my spell,in your spell』
手柴   恋人時代   呼んで!もっと呼んで!!!



待ち合わせは駅前の階段前。
ちょうど時計の見える場所。
手塚と柴崎が付き合いだしてから変わらない待ち合わせ場所だ。


「ごめん、待った?」

「いや」

「うそ。だって、手が冷たい」


そういって、柴崎が手塚の手を握る。
冷え性の柴崎の手はいつものことで氷のように冷たいが、手塚の手もそれに負けず劣らず冷たかった。


「待ち合わせに女が遅れてくるのは普通だろう?」

「まあねえ……」

「それに、仕方ないんだよ。五分前行動が染み付いてる身としては」

「そうねえ……」


柴崎がくすりと微笑む。
近くにいた、同じように待ち合わせをする男たちの視線が柴崎に向くのがわかる。

営業用のスマイル以上に威力のあるプライベートスマイルだ。
手塚は内心「安売りすんな」とごちて、握られた手をそのまま握り返して、駅の階段を上り始めた。


「やっぱ、待ち合わせ場所、変えよう」

「面倒だわ」

「どうせ俺たちが付き合ってることは隊のみんなが知ってるんだから、寮から一緒に出かけて何が悪い」

「待ってるときのどきどき感がないわ」

「お前……一度だってお前が待ってたことがあるか」

「さっき『女が待ち合わせに遅れてくるのは普通だ』って言ってなかった?」


柴崎に揚げ足を取られて手塚が黙り込む。
話術で手塚が柴崎に勝てた試しは、今までに一度だってない。

一言えば十返ってくる。

恋人として隣に並ぶようになって、少しは変わるかと期待したが、そういうものではないらしく、柴崎のマシンガンは相変わらずだった。


待ち合わせをして、ウィンドウショッピングをして、洒落たレストランで食事をする。
くだけた飲み屋や焼肉屋に行くこともある。

ただ、その先は……まだ、ない。

門限を過ぎることを考えて、外泊届けは毎回提出している。
だから、まわりは当然ふたりの関係をフィジカルな関係だと思っている。

だが、しかし。
朝帰りしても、それは飲みすぎたとか、遊びすぎたために、オールで遊んでいただけなのだ。

お互いに、お互いのことが大切で、タイミングを掴めずにいた。


今日は、武蔵野図書館でよく展示しているリトグラフ作家の展示会を見に行く。
はがきサイズの小さな作品が多い作家で、柴崎も何点か作品を持っていた縁で、招待状をもらったからだ。
展示会場に着くと、受付を済ませ、柴崎は作家へ挨拶をするために手塚と別れた。

柴崎が歩いていくと、視線が集まる。
手塚はその光景を苦々しく見つめた。

追いかけられたことは数々。
見つめられたことも数え切れない。
そのことが鬱陶しくて仕方なかった。

けれど、今は違う。
追いかけて追いかけて、見つめて見つめ続けていたい。

柴崎がそれをどう思っているかは正直不安だが。

柴崎が作家と談笑している。
完璧な営業スマイル。
言葉を向けるときの視線から仕草から、何から何まで計算し尽くされている。

微笑んだときに口に添えられた手に、作家の手が伸びた。
作家の目の色は、営業用ではなくプライベートに変わっていた。
この作家も柴崎に魅了された一人の男だった。


「麻子」


その瞬間、手塚は柴崎の名前を呼んだ。

ベッドを共にするタイミングが掴めないのと同じように、名前で呼ぶタイミングも掴めずにいた。
「柴崎」、「手塚」、と呼ぶのが当たり前で楽だった。
「麻子」、「光」、と呼ぶには勇気が要って、変な汗をかいた。

つかつかと柴崎のところへやってきて、手塚が柴崎の手を掴んだ。


「お話中、すみません」


そう断って、手塚が柴崎の腰に手を回した。


「麻子、そろそろ時間だ」


わざとらしく時計を見せて、手塚が柴崎の腰に添えた手に力を込める。
その身体はすでに出口へと向けられている。


「お忙しい中、お越しいただきありがとうございました。ご予定がおありだったのですね。それは残念です。よろしければ、この後お食事でもご一緒して、作品の感想などを伺いたかったのですが……」


肩を大仰に落として作家が柴崎に一礼を送った。
柴崎は手塚に握られた手をそのままに一礼して、エスコートされるまま会場を後にした。


「気をつけろよ」


展示会場のビルを出てしばらく歩いていると、突然手塚が立ち止まり告げた。


「気をつけろ。お前、わかってただろう」


柴崎が純粋な気持ちで作品を気に入っていたから、展示会に行くことは反対しなかった。
だが、あの作家が柴崎に特別な感情を抱いていたことは、作品を展示に来るヤツの様子でわかっていた。
だから、一人で行かせずに一緒に来たのだ。

柴崎の行動を注意すると、たいていは倍返しで返事が返ってくる。
それでも、手塚は言わずにはいられなかった。

繋ぐ指先に力が込められて、手塚が空を仰いで柴崎の反撃を受ける覚悟を決めたとき、柴崎の声がした。
倍返しのときとはまったく違う、小さな声だった。


「あのさ……もう一回呼んで」


思わず手塚が「はあ」と素っ頓狂な声をあげた。

そうだろう。
倍返しのマシンガンが返ってくると身構えた瞬間、ふわりとしたそよ風が返ってきたのだから。

隣の柴崎を見ると、俯いている。
さらりとした黒髪の間からのぞく耳が赤い。

手塚が無言でいると、柴崎が顔を上げて叫んだ。


「もう一回呼んで」


上気させた頬で下からきっと睨みつけるのだが、手塚には可愛くしか見えなかった。
言った後、口を一文字に結んでいる。
幼子ならじたばた地団太を踏みそうな気配だ。

柴崎の顔を見つめていて、呼ぶべき答えが手塚の中にすとんと落ちてきた。


「麻子」


心を込めてその名を呼ぶ。

愛おしくて、大切で。
何にも代えがたいその名を呼んだ。

真一文字に閉じられていた口がゆっくり開き、今までで一番きれいな笑顔を柴崎が浮かべた。


「嬉しい」


ぎゅっと握った手を柴崎の頬に近づける。


「お前さあ、それ、お願いする態度じゃないよな。睨みつけて」

「だって、だって……」


どぎまぎする柴崎がこの上なくかわいかった。
いつもの仕返しをするなら今かと、手塚は思ったが、この状況でそれは興ざめだ。
「だって、だって」と呟き、次の言葉を捜す柴崎を見ただけで、十分だった。

手塚は屈んで柴崎の耳元に口を近づけた。


「麻子」


吐息とともに吹き込まれた名前に、柴崎の身体が震えた。


「俺のことも、呼んで。麻子」


そっと顔を上げて、柴崎を正面から見つめた。

真っ赤になって、口がふるふる震えているのがわかる。
少しずつ視線が上がる。
目が合って、しばらくして、ようやく柴崎の口が開いた。


「光」


そう柴崎が呼んだ。
呼ばれた瞬間、手塚はスポットライトに照らされたように眩しかった。
眩しくて、一瞬目を閉じた。

想像以上の威力だった。

名前を呼ばれるということが、こんなに嬉しくてドキドキすることだと思わなかった。
柴崎がおろおろとしたのがよくわかった。


「光」


もう一度柴崎が呼ぶ。
その声が愛おしくて、手塚はぎゅっと柴崎を抱きしめた。


素晴らしくロマンティックなこの光景も柴崎の冷めた一言で終わりを告げる。


「ねえ、天下の往来よ、ここ」


その声で一気に正気に戻った手塚は、慌てて柴崎の身体を離した。
ふたり同時に小さく吹き出して歩き始めた。

ただし、繋いだその手は離さずに。
時々、思い出したように「麻子」「光」と呼び合って。


fin.

あとがき
タイトルはとある歌からいただきました。
Spell とは名前のことです。
呪文って意味もあります。

誰だ、これは?
という手柴になりました。
手柴は柴崎が主導権を握ると思ったんですが、書き始めたら手塚が主導権を取っちゃって離さない、笑。
そうか、君も男だったのね。

ふたりとも、今までの恋愛経験では、名前を呼ぶなんてこと、意識もしていなかったと思います。
手塚に出会ったから、柴崎に出会ったから、だからこんな小さなことも意識しちゃうんです。
キスは半ば勢いだったけど、ここから先は勢いだけじゃできないことがたくさんある。
そのたびに、どきどきすればいいよ。

初々しすぎるふたりを読んでくださりありがとうございました。
感想をお待ちしています。

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