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図書館戦争に愛を込めて☆熱く語らせていただきます。堂郁、手柴中心二次創作サイトです。
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昨年は図書館戦争を通して、楽しい時間をご一緒させていただき、ありがとうございました。
今年も素敵な充実した時間を過ごしたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

『初春の光』
小毬   危機   今年もよろしく。


紅白歌合戦が終わって、画面には日本各地の有名な初詣の神社仏閣が映し出される。
一年の終わりと一年の始まり。
除夜の鐘の重音が厳かに響く。

毬江は手に握った携帯の画面を確認してひとつ大きく息を吐いた。
そして、両親に挨拶をして、自分の部屋へ戻った。

部屋の明かりをつけて、ベッドに腰を下ろす。
メール確認の画面で、数時間前に送られてきたメールを開けた。


件名:よい年を迎えてください

―― 緊急出動になった。
―― 約束していた二年参りには行けそうにありません。
―― ごめんね。
―― 新年の挨拶には伺うから。


毬江は深いため息を吐いてベッドに寝転んだ。

図書隊の中でも、図書特殊部隊はその名のとおり特殊で、日頃見ている業務以外の深部については公開されていない。
一般市民より図書隊よりの毬江でも知らないことが多い。
小牧は一切語らないから、毬江からそのことを詳しく聞くことはしない。
「語らない」ということは「語れない」ということだと思うからだ。


「今年は一緒に二年参りに行きたいね。図書基地の警備も年末年始は手薄になるから、もしかしたら緊急出動もあるかもしれない。そうならないように願っておこう。一緒に行きたいから」


明日から冬休みに入るから、と図書館を訪ねた毬江に小牧はそう言った。
想いが通じて初めて迎える新年を一緒に祝いたいと言ってくれたのだ。
毬江は飛び上がるほどうれしかった。

大晦日までの毎日、毬江は祈った。
どうか、図書館に何も起こりませんように、と。

しかし、事は起こった。

事情を知った毬江の両親は、気持ちを察して、いつも以上に声をかけた。
小牧を幼い頃から知る毬江の母は、「新年のご挨拶にきたら、幹久くんに食べてもらおうね」と小牧の好物を作ってくれた。


「仕方ないよ……ね」


ぽつりと呟いた。
と、その時、毬江の携帯がぶるぶると震えた。
慌てて開くと、そこには友人からの「あけおめメール」が届いていた。

時計は 1 時を過ぎていた。
携帯の通信制限が解除されたのだろう。
携帯が途切れなくメールを受信した。
しばらくして、携帯の震えは止まった。
どのメールもタイトルは年賀のもので、毬江は送信してくれた友人らに感謝しながらも、そのメールを見る気になれず、そのまま携帯を手放した。


ぷるぷるぷる……


震える携帯で毬江は自分が着替えもせずにベッドで寝入ってしまっていたことに気づいた。
部屋の電灯もついたままだった。

携帯を開くと、それは小牧からのメールだった。


件名:起きてる?

―― 電気が灯っていたので、メールしてみた。
―― ただいま。
―― 明日、正確にはもう今日だけど、は休みをぶん取った。
―― 初詣に出かけよう。
―― 迎えに来るよ。


窓をがらりと開けると、門の前に小牧が立っていた。
携帯の画面を翳して、手を振っていた。


件名:寝てたかも?

―― おかえりなさい。
―― お母さんが小牧さんの好きなものをたくさん拵えて待ってます。
―― お父さんもお酒を用意していました。
―― あがっちゃうと、大変かもしれないわ。


毬江はメールを送信すると、窓辺に腰をかけた。
すぐに小牧からのメールが届いた。
件名は「Re:」となっている。


―― 窓閉めて。
―― 風邪引いたら、大変だから、窓閉めて。
―― おばさんのおせち、楽しみだな。


小牧は手を大きく左右に振って、毬江に窓を閉めるように促す。
けれど、毬江は小牧と同じ空気の中にいたくて、窓を閉めようとはしなかった。


―― それはお互い様
―― 小牧さんこそ早く帰って、あったかくして。
―― おせちは私も手伝いました!


開け放った窓から、新年の澄んだ冷気が部屋に入り込む。
足元にすーっと流れる冷たさに、毬江は足踏みをした。


―― 君の方が大事
―― 寒いだろう。
―― あたたかにしてお休み。


小牧が携帯を見ながら、はあと手に息をかけるのが見えた。
暖房の効いた部屋にいても、震えるほどの寒気だ。
毬江は、いつまでもこのまま小牧を立たせておくのが申し訳なくて。
けれど、このまま見詰め合っていたくて、小牧を見つめ続けた。

小牧が突然、携帯の画面の灯りを手でぱっぱと隠したり見せたりし始めた。
携帯の具合が悪くなったのだろうか、と心配した毬江は、すぐにあることを思い出した。

それは、この夏、一緒に観に出かけた映画だ。
漁師の父親とランタンで会話をする男の子の冒険物語だった。
家には漁船とつながる無線がある。
しかし、父とケンカ中の母の前で無線で話すことはできない。
男の子は父親の漁船から一番見える高台に登って、ランタンの灯りを使って父親にメッセージを送ったのだ。

モールス信号で。
モールス信号は、長い符号と短い符号を組み合わせて文字に対応させたコード化の代表だ。

一緒に映画を見ていた小牧は、無線技士の免許を持っていたから、すぐさま信号を解読して笑っていた。
毬江は字幕で理解して、一呼吸遅れてから笑った。

小牧は今、まさにあの男の子のように、毬江にメッセージを送っているのだ。
毬江には、モールス信号を解読する知識はない。
必死に小牧が送ってくれる光の信号を覚えた。


『・・  ・-・・ --- ・・・- ・  -・-- --- ・・- 』


―― なんて言ってるの?

―― さあ?

―― 小牧さんのイジワル!

―― 言えないから、送ったの。

―― 言って欲しいな

―― おやすみ


挨拶を合図に、小牧はパタンと携帯を閉じて、片手を軽くあげて自宅へと歩いていってしまった。
小牧に背を向けられて、毬江は仕方なく窓を閉めた。
部屋の中は、冷蔵庫のように冷え切っていて、暖房が最強でうなっていた。

毬江はパソコンを開くと、モールス信号を検索した。

モールス信号には、欧文と和文の二種類がある。
基本は、欧文モールスだ。

毬江は、必死で覚えたモールス信号を紙に書き写し、アルファベットの対応表と見比べた。
ジグソーパズルとクロスワードパズルをミックスしたような難しさだ。
小牧が何を伝えようとしたのかを知りたくて、毬江は対応表と格闘した。


「あっ……」


絡まった糸がすーっと解けていく感じに、それは似ていた。
点と線と空間にしか見えなかった紙に、すーっと文字が浮かんでくる。

それは。

欲しくて欲しくて。
言いたくて言えなくて。
毬江が心の中で何度唱えたのかわからないほど、大切に抱きしめてきた言葉だ。


「小牧さん……うれしい」


小牧の自宅の方角を見て、毬江はぎゅっと両腕で自分の身体を抱きしめた。

初日の出の光より先に、その年毬江を照らした初春の光だった。



fin.


あとがき
2009 年初書き SS です。
本年もよろしくお願いいたします。
そして、小毬初です。
ずっと書きたかったんですが、なかなか結末まで辿り着くことができなくて、書きかけばかりが増えるカップリングです。
モチーフにしたのは、昨夏大ヒットした映画です。
毬江ちゃんにとって、光は音以上にいろいろ伝えてくれるものだと思いました。
小牧は恋愛で紆余曲折していると思うので、大切な言葉を伝えるタイミングをすごくすごく推し量っていると思います。
こんなタイミングだったら、伝えられるかなと。

記述したモールス信号は……難しいものではありませんので、ぜひ調べてみてください。
欧文です。

その昔、授業でやりました、モールス信号。
まだ、携帯なんて無い時代でしたから、研究棟同士の通話に使ったこともありました。
雰囲気は「赤毛のアン」のアンとダイアナのろうそくの合図です。
「早く来い」だの「教授帰った」だの。

小牧クラスの図書隊幹部候補生だったら、無線技士の資格を持っていそうだなと思いました。
私はモールス信号の試験のない無線技士は持ってまして、今の携帯電話のように、無線で友人たちと連絡を取り合ってました。
ただ、距離は近距離(半径5キロくらいかな)でしたが。
コールサインは流してしまいましたが、懐かしい思い出です。

読んでくださってありがとうございました。
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関東の片田舎に住む。
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